高らかに掲げ
―ゴンザレス ホテル 夜―
その後、俺達は無事ホテルで眠らされていた人達の救助を終えた。合計して、約三百人。それまでの間、襲撃は一切なかった。安心安全で、落ち着いて素早い行動が出来た。危険人物は確かに、このホテルに潜伏しているはずなのに。
そして、当日の出勤名簿と宿泊名簿を照らし合わせ、避難遅れは一切ないことを把握。つまり、一階から最上階まで、くまなく捜索することが出来てしまったということだった。
「……化け物の気配ある?」
「いや、ない。本当にいるのか?」
「ここまで大騒ぎしておいて、まさかデマだったなんて話にならんぞ」
「でも、不審な魔術の使用はあった訳だし……」
この不可解な状況に、一度兵士達はフロントに集められた。どんな馬鹿でも、この違和感には気付く。皆、口々に疑問を漏らすものだから、場は騒がしかった。
(緊張感が緩み過ぎてるな。気持ちは分かるが……死んじまうぞ)
俺が、そんな不安を抱いていた時だ。怒りを床に叩きつける音が響いた。その音で、一気に場が静まる。
(びっくりするぅ……え、何?)
皆の視線が向く方向と音の聞こえた方向は一致していた。そこにあったのは、鬼のような形相で兵士達を睨みつける剣を持った男だった。
「黙れ! まだ何も終わってなどいない! 噂が嘘であるならば、それを証明する証拠がなければ緊張の糸は解くな。腐っても、お前達は英国騎士団の一員だろう。これが、お遊びだと思っているならば、すぐに城に帰り、騎士団をやめてしまえ! 無駄死にされては、こちらも迷惑だ。殉職手当を払い続けなければならないのだからな」
要するに、やる気ないなら帰れよとのことだった。この緊張感、この強者感――全然知らない人だけど痺れた。
(もしかして、もしかしなくても……この人が騎士様か? 物を大切にしないと怒るっていう。一人だけ格好が豪華だし、多分そうだろうなぁ。しかも、金髪で青目のイケメン、ちょっと怖そうな感じ……俺的THE騎士のイメージにぴったり合うぜ)
暑苦しい甲冑の下で、生まれて初めて見る本物の騎士に俺はひっそりと興奮していた。
「さあ、どうする。ここで去っても、私は咎めない」
当然ながら、立ち去る人はいない。ここで動けたら、多分別の世界で羽ばたける。腰抜け野郎という不名誉な称号と共に。
そして、しばらくの沈黙の後、再び彼は口を開く。
「……ほう。理由はともあれ、全員が残るとは。ならば、その覚悟を胸に職務を全うせよ。たとえ、何もなくとも、お前達が仕事に向き合ったという事実は揺らがない。英国騎士団第十三騎士ガラハッドが、保証しよう」
厳しい表情は変わらぬものの、凍り付いていた雰囲気は徐々に熱い士気に包み込まれていく。
「お前達は、ガラハッド隊の兵。その誉れ、心に刻め。全ては安寧の為! 心意気を示せ! 術者を洗い出し、捕縛せよ!」
「「「イエッサー!!!」」」
彼が剣を掲げると、兵達もそれに合わせて高らかに剣を掲げるのだった。




