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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十一章 白ノ花
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グッパイ雑念

―ゴンザレス ホテル 夜―

 ホテル突入後、いくつかの隊に分かれて部屋の捜索を始めた。俺は、成り行きで一番最後の部隊と行動を共にすることになった。

 世間の風に流されて、そのままの勢いで動いてる感が否めない。対象を刺激しないようにとか、気付かれないように特殊部隊を……とかするものだと思っていた。世界が違えば、国が違えば、常識も違うと言われればそこまでだが。


(こんなに堂々と突入してんのに、出迎えもなしか……予想外過ぎて、おねんねか? それとも、相手にするつもりもねぇってか?)


 外も中も騒がしい。普通だったら、パニックになって暴れ始めている頃合いだ。


(つか、やけに静かだな。ホテルの従業員とか他の客はどこに? 人質に取られてるんだとしたら、それは主張すべきだろうし……)


「――誰か、来てくれ!」


 フロアにある一つ一つの部屋を、警戒しながら確認していた時だ。一人の兵士が、驚きの声を上げた。何かあったのかと緊張が走る。


「どうした!」

「何事だ!」


 近くにいた者が、その部屋へと駆け寄っていく。俺も様子を見に行ってみる。すると、中には大勢の人が詰め込まれていた。皆、倒れて動かない。


(まさか……!)


「どけっ!」


 俺は、部屋の前で立ちすくむ彼らを押しのけて、部屋へと入る。そして、一番近くで倒れていた男の脈を取った。


(生きてる!)


 彼の心臓は、しっかりと動いていた。


「こいつは生きてる!」


 ついでに、彼の体を確認すると、魔術をかけられた痕跡があった。微細な粒子が、体に付着している。


「こいつは、魔術で眠らされてるみてーだぞ! おら、そこで突っ立ってねぇでお前らも協力しろ! このスカポンタン!」

「お、おう」

「す、すまない……」


 そして、部隊全員で部屋の人間の安否を確かめた。すると、全員魔術で眠らされているだけだと発覚した。


(眠らせているだけ? しかも、部屋に放置とは……保護しろと言っているみてぇだな。人質にするつもりはねぇって)


「もしかしたら、他の部屋にもいるかもしれねぇ。このフロアにいた人間だけを集めたのかも。他の部隊と連絡は取れんのか?」

「あぁ、この端末で……って、お前も持ってるだろ?」


 そういうと、手から金属板みたいなものが現れる。ぺらっぺらだが、それで情報のやり取りが出来るらしい。そんな物が配布されているなんて、聞いていない。


(やべぇ~そこまでは持ってねぇよ。この格好も所詮、模造品だしなぁ。あんまりまじまじ見られると、バレちまうかもしれねぇ。うわ~ドジった)


 調子に乗って、しゃしゃり過ぎたのが仇になった。どうにか、誤魔化さなければ。


「あ~それなんだけどよ、さっき落としちまってさぁ。なんか調子悪くて、マジ使い物にならんのよ」

「仕方ないな……気をつけろよ。あ、騎士様には自分で報告しろよ。あの人、物の扱いには厳しいんだからな。ったく……」


 ぶつぶつと不満を漏らしながらも、俺に代わって連絡を取り始めてくれた。


(危ね~一安心だな。つか、騎士様って何? 隊長的な感じ? 流石に聞けねぇし……くそ、体制まで調べる時間はなかったぜ。難儀な調べ物のせいで!)


「よし、伝えた。む、どうやら他のフロアにも同じような状態の人がいるみたいだ。なるほど……よし」


 端末を眺めながら、彼は一度大きく頷いた。そして、大声で言う。


「皆! 三〇九号室に要救助者が大勢いる! 騎士様からの命令で、まずはそちらを優先する! 人手が足りているようならば、引き続き捜索を続けろとのことだ!」

「「イエッサー!!」」


(端末があるのに、口頭で!? つーことは、個人でのやり取りしか出来ないのか……まだまだだな!)


 ちょっとだけ、勝った気分になった。ちょっとだけ、だが。この世界と俺の世界、同じ人物が存在いているのに常識や構造はまるで異なる。こっちの世界には、俺の世界にはないものが沢山ある。出身の世界に劣等感すら抱くほど。


(でも、いずれ抜かされちまうんだろうな。魔術頼りの国で、ここまで来てるんだ。俺の世界も、ちゃんと成長するよな……)


 俺がこの世界にいる間も、時は流れていく。それでも、戻るのは俺が転移する前の時間。要するに過去だ。およそ、数年前に戻るとして、そのギャップに苦しむことになりそうだ。


(ええい! 今は俺のことはどうでもいい! 避難最優先!)


 雑念を振り払い、俺は目の前のことに集中を向けた。

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