お節介
―ゴンザレス ホテル前 夜―
ホテル前には、武装した者達が集結している。少し離れた場所からは野次馬と記者が見守っていた。彼らが集まったのには、当然ながら理由がある。
それは、国家転覆を企む悪の組織のペットである化け物がここに籠城しているという情報が出回ったからだ。まずは、一般市民からその情報を広げた。その後、偽の証拠品を周囲にばら撒いた。結果、上手くいったが噂が噂を読んで、色々なものがついてしまった。ただそのお陰もあって、警察と軍隊が早期に動くこととなった。
(やれやれ……これで良かったのか? まったく、手間かけさせやがる。つか、俺は国が危ないらしいよってのを言って、それを裏付ける証拠を適当に作ってばら撒いただけなのにな? こんなに集まっちまったら、巻き込まれる奴出てくるぞ。あいつに守り切れるのか?)
『――要するに、俺に情報収集しろと仰ってんのか? くそ忙しい俺に?』
『下手に動けない、ゴンザレスにしか頼めないと……』
日々、王の代行業務に追われる俺の前に老人が突然現れた。そして、巽の代わりに「白のカラス」と「世界最初の統治者」の情報を集めるように迫られた。
どこまで代行させれば気が済むのか。腹が立ったが、差し迫った状況であることは分かった。
(憎まれ口は立派なのに、都合いいよなぁ。俺依存症か何かか? ま、引き受けた以上、俺の方からもサポートしてやっか。王様は絶望的に頼りねぇからなぁ)
「……動き出しました! どうやら、突入の模様です!」
興奮気味の甲高いアナウンサーの声が響く。見ると、兵士達が動き始めていた。警察達は、周りを警備するようだ。
「始まるみてぇだな。よし、行くぜ!」
兵士の変装をしていた俺は、ホテルに突入していく隊列に迷わず合流する。しれっと一番後ろについて、無事に馴染むことに成功した。
(甲冑で助かるぜ。下手に顔も見えんしな。それっぽい動きしてりゃ大丈夫だな)
中に入ったら、まずは巽を見つけなければならない。そして、これを返さなければ。俺は、ペンダントを握り締める。
『あ、あの……これを巽様に返して欲しいんです。あんまり覚えていないんですけど、どたばたしている間にペンダントを私が持ったままになっちゃってて……わ、私の代わりに巽様に返して欲しいんです。お願いしますっ! ちゃんと、ちゃんとお留守はお守りしますから!』
巽が肌身離さずつけていたペンダントを、以前のロキとの戦い終わりに返せなかったらしい。それは、小鳥のせいではないのだが随分と気にしている様子だった。
不安を解消してやらねば、業務にも支障が出る。それが、今回協力することを決めた一番の大きな理由だった。
(俺もお節介だよな。ま、もう趣味だわ)
「今から部隊に分かれて行動する! 従業員の安全を最優先に、犯人の確保を目指すぞ! 攻撃されるようなことがあれば……こちらも応戦しろ。総員、作戦開始!」
リーダーっぽい人が、高らかにそう宣言すると隊員達もそれに応じる。
「「「イエッサー!」」」
「イエッサー!」
周りに合わせて、俺もとりあえず敬礼をしておいた。




