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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十章 二人だけの世界
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破滅を望む理由

―ヴィンス 浜辺 夜中―

「はぁ……うぅ……!」


 どれだけ砂浜を歩き続けたのか、永遠にここから出られない気がした。力を使い過ぎた反動が、戦いが終わった後に一気に襲いかかった。

 正直、歩くという行為すら苦しかった。視界が霞んで、体が鉛のように重い。翼を広げることも試みたのだが、私の背中に変化はない。普段、息するように出来ることが意識しても出来なかったのだ。


「無理……し過ぎたのでしょうか……」


 気分が良くて、無敵になれた気がして、思うがままに力を振るってしまった。その反動は、あまりに大きかったということだろう。圧倒的に勝利を収めた気分になっていたけど、こうなってしまうと後味が悪い。


(所詮、私はこの世界の住人ということですね。これでは、ボスに合わせる顔がありません。いや、これすらもボスには想定済み……ですよね)


 自身の不甲斐なさと力不足を実感していた時、何とか動かせていた足の感覚がついになくなった。一度瞬きをしたら、次の瞬間には私は砂浜に倒れ込んでいた。


「ぇ?」


 すぐに立ち上がろうとしたけれど、足はまるで自分のものでなくなってしまったかのように、びくともしなかった。


「おかしいですねぇ……」


 いくら無理な動きをしたとはいえ、ここまでになることなんてあるのだろうか。未知なる力を無理矢理体にねじ込み、乱発し過ぎた結果がこの様なのか。周りには、龍の力を宿して平然と動き回る人達ばかり。ここまでの影響があるとは、流石に想像し切れなかった。


(自分にとっていいようになるように、改造し過ぎたからでしょうか? でも、コードを抜き取っただけですし……それが不味かったってことなんでしょうか)


 考えても考えても、私には分からない。そもそも、こういったことは専門ではないのだ。


(悩んでいてもしょうがないですね。とりあえず、ボスの所に――)


 今度こそと、魔法を使って体を浮き上がらせようとした。魔力は、最悪命を削ればいくらでも絞り出せるものだから、それを選択した。いつまでも、ここで倒れている訳にはいかない。死に一歩近付くのだから、それなりに覚悟のある行為。報われなければ、悲しくて仕方がない。というか、ここまでしたのだから報われると思っていた。


「わっ!?」


 この国の教養では、幼児でも出来る簡易な魔法。失敗などありえない。失敗という概念すらない。そのはずなのに、私の体は浮かなかった。代わりに浮いたのは、新調した宝物のナイフだった。


「待って!」


 慌てて掴もうとしたのだが、手すらまともに動かせず、ナイフは無情にも私から離れていった。そして、すぐに浮力を失い、ぎりぎり手の届かない場所に落下した。

 あの時、届かなかった手。それを再現されているかのようで、ただただショックだった。這ってでも取り戻そうと、必死にもがく。


「ヴィクトリア……」


 現状で、妹と私を繋げる唯一の物。きっと、妹の魂はもうこの世界にはないだろう。罪人になる間もなく、彼女はこの世を去ってしまったのだから。

 けれども、私は罪にまみれている。この世界がある限り、私はこの世界に戻ってくることになる。何も知らず、囚人として。なくなれば、私の魂は異世界へと運ばれ、行先は神が判断するらしい。つまり、チャンスはある。この世界がなくなれば、私も妹と再び同等になれる可能性があるのだ。心があるなら、どうにでも出来る。


(牢獄に、私一人放り込まれるなんて嫌です。もう一度、どんな形でもいいからヴィクトリアと一緒に……その為ならば、どんなことだって――)

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