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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十章 二人だけの世界
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肉塊

ーヴィンス 浜辺 夜中―

 無抵抗のエトワールに、私は舞うようにナイフを振り下ろす。そして、そのまま首を掴んで座り込み、様々な舞を披露しながら、彼の顔面を引き裂いていく。これが、ボスから教えて貰った剣技だ。それを、自分なりにアレンジした。


「スカイ・ライト・ダンス!」


 普通であれば、この窮地に恐怖の表情を浮かべていただろう。しかし、エトワールは恐怖とは対極にある穏やかな表情を浮かべて、目に涙を滲ませていた。その目は、私ではない他の何かを見ていた。


(……ボスから教えて貰った剣術のせいですね。彼がこんなにも安らかな顔なのは)


 エトワールにとどめを刺す時は、必ず演舞剣術を使うようにと言われた。ボスの使う技名は、聞き慣れない言語だったけど、響きが何だか綺麗だったし、きっと美しい剣術なのだと思い期待した。

 そして、後から翻訳し、独自に調査してみた。すると、技につけられた名前は使う側ではなく、使われる側から見える幻を表したものなのだと知った。慈愛に満ちた甘い剣技。それを受けると、皆例外なくエトワールのように心地良く逝く。これの考案者とは、友達にはなれないと思った。


(私が見たかったのは、こんなものじゃなかったのに……でも、それがボスから託されたことだったし、歯向かうなんてことは出来ないです)


 私としては、出来得る限り残忍に殺して、その絶望に満ちた表情を愛でるのがポリシーだ。安らかな顔なんて、生きている間にいくらでも出来る。

 その死の間際にだけ、死を自覚して見せるあの表情が私は好きなのに。ボスに言われない限りは、今後絶対に使わない、と心に決めた。

 

「はぁ~……」


 肉片になったエトワールの頭を搔き集めて、一つの肉玉にした。そして、それを海に浮かべる。すると、その臭いに釣られたのか小魚が何十匹と寄ってくる。一匹が、小さな口を開けて肉玉をつつき始める。すると、それに釣られて他の小魚もつつき始めた。


「美味しいですか……? エトワールは。彼は、きっと独特な味がすると思います。龍の味が深く染み込んでいるはずですから。まぁ、私は食べたくありませんけど」


 これで、彼は完全に消失するだろう。あんな姿になってしまったのなら、魚の餌くらいがお似合いだ。所詮、五番目だ。私の方が一つ優れていて、それは覆せなかった。


(残念でした……さて、そろそろ行きましょう。ボスに報告をしないと……)


 ボスの所に戻って、決闘の結果を伝えようと立ち上がった時――。


「っ!?」


 少しの間、世界が歪に見えたが、瞬きを何度かしたら落ち着いた。


(疲れでしょうかね。頑張り過ぎましたし……とりあえず、帰りましょう。歩ける所までは、歩きましょう)

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