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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十章 二人だけの世界
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火から炎へ

―ヴィンス 浜辺 夜中―

 よく見れば、よく聞けば、よく嗅げば、よく考えれば、そこに道は現れる。示されるがまま、氷と氷の間を縫って素早くエトワールに迫っていく。

 これくらいの攻撃、冷静になれば恐ろしいことなど何もない。命のやり取りに関しては、彼よりも経験がある。


(いつだって、私は命の終わりを見届ける側なんです。それに、例外はありません)


 彼は、あくまで情報収集が本業だ。その過程で、殺しに手を染めることは何度かあっただろう。けれど、おまけ程度のものと本業のものはまるで違う。そう、負ける根拠はどこにもないのだ。


(ここまで近付いても気付かないなんて、だから貴方は……!)


 ボスに教えて貰った独特な構えを、今こそ披露する時だと思った。これでも一緒に過ごした間柄、彼の言葉を借りるなら「家族」だから。安らかに眠らせてあげよう、とナイフを振り下ろした時――高笑いを上げていた彼の顔から笑顔が一瞬で消え去った。


「え……」


 予期せぬ出来事に、思考がとまる。


「俺が克服していないとでも思ったか? 今のは……演技だ。お前をはめる為の。戦いに備えるのは当然だろう。俺が、どれだけこの日を夢見てきたと思っている? お前のような浅はかな思いではない!」


 力強い声が砂浜に響き渡ったその瞬間、私の体を氷柱が様々な方向から貫いた。思考を巡らせられなくなったことで、自然と動作が鈍くなってしまったからだった。


「これは……あは、一本取られました。ま、まさか……エトワールがそこまで出来るようになっていたなんて。同年齢として、嬉しいですねぇ……」


 明らかな計算ミスだった。血も痛みもとまらない。動揺を隠し切れない。私の体を固定する為に貫いた氷柱は、全て急所を避けていた。


「お前の回復能力は、事前に把握済みだ。これくらいならば、死には至らない」


(まさか、エトワールに謀られてしまうなんて。本当に殺すつもりはないんですね。あぁ、どうにか……まだどこかに……)


 串刺しの私に、わざわざ目線を合わせ、微かな笑みを浮かべるエトワール。私の心の奥底に、まだ期待の火が灯っていることなど知る由もなく。

 そして、彼はゆっくりと下に視線を向ける。その先にあったのは、意地でも離さないつもりでいるナイフだった。嫌な予感がした。


「もはや、力など出ないだろうに。そこまで大切か? 家族の命を奪った刃と妹の骨で作ったグリップは」


 それは、今までのエトワールのような冷たい声だった。


「日々のメンテナンスに加え、最近にはグリップ部分の装飾を変えて、お前にしては珍しく大切にしていたようだな。だが――」


 大きな氷が、私の両腕ごと落下する。声すら出なかった。取り戻そうとしたけれど、手もなければ、身動きも出来ない私には不可能だった。


「お前の家族は、これじゃないだろう。俺達だけだ」


 エトワールは、それを追って砂浜へと着地する。そして、何食わぬ顔で平然とナイフを踏みつけた。


「ぁ……」


 その屈辱的な光景は、私の中に灯っていた火を炎へと変えた。希望から怒りへと、明確に自分の中で変化していくのを感じた。私に、更なる力をもたらすほどに大きく――。

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