生半可な力
―ヴィンス 浜辺 夜中―
轟音が、静かな浜辺に響き渡る。見ると、海面が粉々に割れていた。そして、瞬く間に凍っていく。
「ハハハハ……ハハハハハハハッ!」
こんな綺麗な夜には、不釣り合いな笑い声だった。
(これが、変幻と破壊の龍を組み合わせた力。私の持つものとは明らかに違う。何とも強大で膨大なのでしょうか)
エトワールは、研究所にいた時代に研究者によって龍の力を埋め込まれた。適正があったらしく、二つも。ボス曰く、研究員達のやり方はずさんなもので、適正がある者も滅茶苦茶にされることが多くあったという。さらに、破壊の龍の力は時に対象者さえも破壊することさえあったらしい。
(逆になってしまいましたね。私から手の内明かしてしまったせいで、こっちの方が映えてしまっているじゃないですか)
悔しかった。誰も見てはいないけど、かっこよくありたかったから。
「愉快、愉快だなぁ! 最高に気分がいい! 何も我慢しなくていい、何も守らなくていい! 衝動のままに全てを起こせるなんて、最高だなぁ! ヴィンス、逃げ惑うがいいっ!」
海から作られた氷柱は、それを合図として私に襲い掛かった。海は広くて、深い。実質無限だ。避けても避けても、キリがない。
やり方を変え、ナイフで弾いてみた。だが、氷のくせに頑丈で壊れず、またこちらに襲い掛かってくる。
「あぁ、もう!」
恐らく駄目だと分かっていたが、一縷の可能性にかけてシールドを張る。
「無駄だ、そんなものは! ハハハハハハハ! お前は世界の穢れの象徴。俺が、ここで食いとめる!」
その言葉通り、すぐにシールドには綻びが見え始めていた。
「はぁ~……」
エトワールの資料があれば、もっとよく立ち回れたのかもしれないのに。ボスはあまり教えてくれなかったし、彼も徹底して隠滅している。
(とりあえず、一度落ち着きましょう。冷静になれば、量だけの攻撃なんて大したことなんてないんです。彼の笑い声に惑わされていけません。惑わすのは、彼の担当ではないのです。この私なのです)
彼だって、完璧に制御出来ている訳ではない。ただ力が強くて数が多いから、動きにくいだけのこと。頑張れば、避けきることは出来る。攻撃に夢中になり、かつ慢心している今の彼の下に到達することが出来れば可能性はある。俊敏性と忍ぶ力ならば、私の方が優れている。絶対に。
(龍の力だって、完全じゃない。隙はあります。必ず! 私を惑わせた罰を受けて貰いましょう。そして、必ず葬ってあげましょう)
ナイフをかわし、そう考えながら私はじわりじわりと距離を詰めていく。そのことに、高笑いをする彼は気付いていないようだった。龍の力を使い続けると、周りが見えなくなるという弱点があることは知っている。凡人ならば、それに気付いてもあっさりと死んでしまうだろう。
(私は凡人じゃありませんよ、エトワール。そんな生半可なままでは、通用させませんから……!)




