表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第四十章 二人だけの世界
658/768

月と海の見える場所

―ヴィンス 浜辺 夜中―

 ホテルから弦月に照らされる浜辺へと場所を変え、私とエトワールは相対する。ここが、ボスの用意した決闘の舞台。ボスの所有するプライベートビーチ、誰も邪魔は入らない。ボス達もここにはいない。


「ふふふ、まさかすぐに挑んでくるなんて……私と同じ気持ちでいてくれたんですね?」

「同じ気持ち? どんな気持ちだ、それは」

「白々しいですねぇ。待ち侘びていたのでしょう?」

「俺から望んだこと。待ち侘びるのは当然だ。だが、お前と同じ気持ちかどうかは知らない」


 こんなにも胸の高鳴る環境が整っているのに、エトワールは淡々とした調子のまま。少し悲しい。仕方ないことだけど、もっと見せて欲しいものだ。それが難しいなら、せめて――。


「ガスマスク、外して下さいよ。お互い、本気でいきましょう」

「……無論、そのつもりだ」


 普段はあれほど嫌がることも、今回ばかりは違った。すぐにエトワールの顔が露わになる。術後の生々しい痕。これを拝みながら、戦えるなんて夢のよう。精が出る。

 彼は、ガスマスクを外して投げ捨てる。波打ち際に転がったそれは、すぐにさらわれて流れていく。しかし、それを気に留める様子はない。


(エトワールにとって、宝物のはずなのに……それくらいの覚悟があるということですか)


 当然、それには応えるつもりだ。私は、新調した特製のナイフを二つ取り出して構える。


「面白くなりそうですね。さぁ、始めましょう」


 きっと、ボスにはこの先の未来は読めているのだろう。だからこそ、私達の戦いになど興味がない。どちらが戻ってくるか、なんて。


「どうだかな」


 彼は、鋭い目つきで私を見据える。


「私達にだって、イレギュラー起こせたりしませんかね?」

「そんなこと、どうでもいい。俺が勝つことは決定している」

「何を根拠にそんなこと……私は、一応四番目なんですが」

「俺は、お前とは違ってこの役職に就いたからといって、あぐらを掻いていたりはしていない」

「あれれ……そんなに私、何もしていないように映ってましたか? う~ん」


 確かに、エトワールの目に見える部分では仕事以外のことは何もしていない。そう、目に見える部分では。全てを知ったつもりになって、驕っているのはどっちだろう。それを考えると、馬鹿馬鹿しくて哀れに見えて、思わず笑みが零れる。


(違和感は感じているようでしたし、察していると思っていたのですが……所詮、その程度ですか)


「何を笑っている」

「エトワール、だから貴方は五番目に留まり続けているんです。そして、最期まで私を追い越すことは決して出来ない。今日は、月も海も綺麗です。こんな日には、血がよく映えるでしょうね」

「相変わらず、理解出来ない感性だ。お前のような輩が、自由に生きているなんて恐ろしい。その口の言うことも信じられない。いつ、ボスを裏切るか……俺が勝てば、そんなリスクはなくなる。俺の目の届かない所に放置されることはない」

「あれれ、勝ったのに生かしてくれるんですか?」

「苦しまずに殺してやる為だ。家族として、最大限の配慮だ」

「それはそれは。どうもありがとうございます。ですが……」


 私は飛び上がり、ナイフの切っ先で彼の瞳を捉える。


「お断りですよぉぉ、そんなものっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ