三つの家族
―N.N.ホテル 夜―
呆気ない。何とも呆気ないものか。見せて欲しかった、家族の奇跡を。
「まぁ……所詮、あの程度なんだろうね。バランサの言っていた、家族というのは。これで証明された。家族は血の繋がりではないということ。結局は、思い込みなんだ。記憶を二人共封印しただけで、あの有り様だったしね」
ミニチュアのエトワールが映し出す映像を、家族団らんで見届ける。もしかしたら、とリアルタイムを望んでいた。だが、そうまですることはなかったみたいだ。刺激も新鮮さも何もない。多少のイレギュラーはあったものの、結末は私の想定と寸分の狂いもない。
「本当に……そうかしら?」
珍しく、イザベラが口を挟む。
「どういうこと?」
「少なくとも、私達仲間では出来なかったと思うわ。あんな姿になった、バランサの涙を見ることなんて。結果は変わらなかったかもしれない。けど、その過程が違ったのなら……奇跡と呼んでもいいと思うわ」
「仲間じゃない、家族だ」
それに対し、本体のエトワールが文句を言う。自分が、ふと漏らした言葉を気に入ってしまったみたいで、強く求めて強制するようになった。皆それに面白がって便乗したり、小馬鹿にしていたり、仲間を家族と言い換えているだけ。正しい家族という認識が浸透しているとは言い難かった。
「そうそう! 家族家族!」
その代表とも言えるのが、ヴィンスだろう。手を叩きながら、にこやかに頷いている。
「話を戻そうか。それで、こちらの想定通りに全て終わった訳だけど……あの二人の遺体は?」
「申し訳ございませんん。アマータとバランサの遺体は、既に毒が完全に分解し、消滅しております。その後の処置も、俺の部隊が処理しました」
「そっちも何の問題なく終わっちゃった訳ね。まぁ、いいか。ちゃんと約束は守れた訳だし……自分は筋は通したよ」
家族の為に生き、家族の為に死にたいというアマータの願い。家族と一緒にいたいというバランサの願いを。
「アマータは、凄いよね。三つの家族の為にその命を捧げたんだから」
「三つ? 三つも家族という団体に属しておったのか? そりゃ、たまげたのぉ。知っておったか? 長子様」
双龍の化ける老人が笑いながら、仮面の隙間から涙が見えるほど号泣する破壊の龍へと問いかける。
「低俗な者共のことを知って何になる? 嘆かわしい、そんなことも吾輩に聞かねば分からぬのか。馬鹿共と長く関わり続けたからか、汚らわしい……」
「要するに知らないってことですねぇ~」
「口を慎め、この俗物が。この吾輩を侮辱するなど――」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。アマータは、バランサという実の娘の為に組織に入ったんです。そして、組織に入ってからは役割をこなし続けてくれた。そして、不可抗力で不幸にしてしまったモニカ元警部補の家庭を救って見せた。最期は、娘と一緒に……覚えてないはずだけど、バランサの願いを叶えて死んだんだ」
アマータの力は、大きかった。これまでの恩は、十分に返せただろう。自分は、満足していた。
「くだらん。このようなことの為に、吾輩を呼ぶとは」
破壊の龍は不快感を滲ませながら、部屋を出て行く。自身が見下す相手が称賛されているのが嫌だったのだろう。本当に扱いが難しい。
「ハハハ……まぁ、いいか。それで、計画は次の段階だ。エトワール、ヴィンス。覚悟は出来ているね? 君らの役目は、もう終わった。次は、君らの番だよ」
自分がそう伝えると、エトワールは覚悟をもって強く手を握り締める。一方のヴィンスは、薄ら笑いを浮かべてエトワールを見つめているのだった。




