約束は守る
―? ? ?―
それから、オレは毎日寝る間を惜しんで探した。徹底的に、しらみつぶしに。ありえないと思う所だって、くまなくだ。その対象範囲は、この国の長が住む城も含まれた。親父の隣にいた男は、白髪だった――それだけの理由だ。気味の悪い雰囲気を纏った奴。あれは、カラスではないと思った。覚悟を決め、忍び込んだ時だった。突如、世界が真逆になった。
「よく頑張ったねぇ。その執念には感動しちゃうな。これが父を想う、娘の愛って奴なのかなぁ? いや~驚いた驚いた」
オレを地面に押さえつけ、わざとらしく褒め称えたのは白髪の男だった。力には自信があったのに、どれだけ暴れても、男は余裕の表情を崩さなかった。
「離せっ! 来てやったんだ、親父を出せっ!」
「……会わない方がいいかもよ。今ならまだ引き返せるよ」
「あァ? ふざけたことを抜かしてんじゃねぇ。オレはァ、親父の為にここまで来たんだよ!」
「ウソウソ。言ってみただけさ。何もかも分かってた。今日、君がここに来るってことくらいね。想定内だよ」
「はァ? 想定内って何だよ? オレは、今日までずっと一人で探してたんだ。オレの意思で! てめぇみたいな野郎に、想像出来る訳がねぇだろうがァ!? ごちゃごちゃと言ってねぇで、さっさと親父を出せよっ! 家族を返せっ!」
男の発言はことごとく、オレの神経を逆撫でした。
「家族ねぇ……気になるんだけど、家族の定義って何なの?」
その表情が陰り、さらに押さえつける力が強くなる。
「いてぇ! やめろっ!」
「分からないんだよ、ずっとね。何が、家族を繋ぐの? 血? それとも、見た目? いつからその意識が生まれるの?」
質問を的確に返さなければ、このまま地面と一体化させられてしまいそうなくらいの気迫。それでも、オレはこんな奴に屈したくはなかった。それに――。
「知るかァ! んなもん。いちいち意識なんてしたことねぇんだよ。家族だって思ったら、家族だろうがァ! くそくだらねぇ質問してんじゃねぇ!」
考えたこともない。意識したことすらない。ずっと家族だと思って生きてきて、支え合ってきたのだ。愛していたし、愛されてもいた。頼りない親父だったけど、オレが代わりに強くなればいい――それが、幼い頃からの目標だった。でも、何もかも奪われた。家族も、居場所も、愛も、目標も。こんな意味不明な奴に、隙を突かれて。
「そう……本当にそうなのかな。お父さんが、まるで別人みたいになっていても君は家族と呼べる? 家族にまつわる記憶を全て封印しても、自力で思い出せるのかな」
大人しく話を聞いてやっているのに、一向に親父に引き合わせないこいつに腹が立った。
「あァ? てめぇ、さっきから何が言いてぇのか分からねぇ――」
「フフフ……ハハハ! 長ったらしくごめんね、バランサ。約束は守るよ。お父さんには会わせてあげる。ただ、どっちも真っ新な状態でね……」
オレの目に映ったのは、不敵な笑み。まるで、悪魔のような醜い笑顔だった。そして、それが最後に認識した最悪の光景――。




