家族を取り戻す
―? ? ?―
――オレは幸せだった。親父とオレ、毎日を小さな家で息を殺すように食い繋ぐ生活でも満たされていた。けれど、親父はそうではなかったらしい。
ある日、唐突に出て行った。真夜中に、置手紙だけを残して消えた。
『仕送りはする。隣のおばあさんには言ってあるから、頼りに生きて欲しい。お前を幸せにする為だ、理解して欲しい。いずれ迎えに行くから、待っていてくれ』
許せなくて、オレは血眼になって探した。髪を全部剃って、帽子を被り、サングラスをつけて痕跡を辿った。そして、執念の末に見つけ出した。
「――待てやァ! くそ親父っ!」
白髪の男と共に、暗がりの中を親父は歩いていた。触れたら折れてしまいそうな体、頼りない背中。すぐに親父だと分かった。
「どうして……来た?」
「どうしてって……あんな手紙で納得出来るかよっ!」
「オレは弱いから、守れないから。このままの生活じゃ、永遠に不幸だ。食事も満足に食べられないなんて、苦しいだろう。だから、カラスの為のいい職場を見つけたんだ。絶対に幸せにするから。待っていてくれないか」
「――んでだよ! オレらは家族じゃねぇのかァ! なんで、オレも連れてってくれねぇんだよ!」
「それは……仕事で……」
親父は言葉を濁す。すると、隣で薄ら笑いを浮かべていた白髪の男が口を開いた。
「君がいたら、ちょっと困るんだ。父性って言うのかな? それがちょっと邪魔でね。あんまり、お父さんを困らせない方がいいよ。君を思ってのことなんだからさ」
「はァ?」
初対面で殺意を覚えるほどのウザさだった。へらへらとしていて、オレを小馬鹿にするような態度。その全てが気に食わなかった。
「君のお父さんにしか出来ないことだ。探し出したことは褒めてあげる。でも、ここから先はお遊びじゃないんだよ。君にその覚悟があるというのなら、また見つけ出してご覧。そうすれば、君も家族に迎え入れてあげるから。さ、行こう」
一方的に言って、男は半ば引きずるような形で親父を連れていく。寂しそうな表情を浮かべ、オレを見つめながら去っていく。むかついてむかついて、しょうがなかった。
「くそ親父! 中途半端に生きやがって! てめぇの家族は、ここにいんだろうがァ!? 誰の為に生きてんだよぉぉぉっ!? オレの為、オレの為って……求めてねぇんだよぉっ! そんなことはァ!」
追いかけようとしても、あまりにもショックが大き過ぎて足が動かなかった。
「なんでだよぉ……帰ってきてくれよぉ……」
声は届かなかった。親父達は姿を消して、もう見えなくなった。完全に見捨てられ、オレは絶望した。しかし、すぐに男の言葉を思い出した。また見つけ出せば――会えるということを。
「やってやらァ……子供だと思って舐めやがってよぉ? その時が、てめぇの最期だ……」
全てはそう――家族を取り戻して、幸せになる為に。




