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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十九章 子は三界の首枷
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奇跡と偶然を願う心

―アマータ 街 夕方―

 私が、ボスの望むイレギュラーを起こし、自然と愛される彼のようになれたなら――違う未来もあったのかもしれない。けれど、私はこの世界の中に納まるだけの平凡なカラス。羨ましいけれど、その分の苦しみが伴うことも知っている。

 こんなことで揺らぐ私のような心の持ち主では、到底背負うことの出来ない期待だった。心の筋力が足りなかった。だからこそ、彼女に決断を委ねる形になってしまったのだ。


「なんで!? なんでだよ、見捨てるって!? この白状者! なんで、なんでこんな時に限って誰もいねぇし、こねぇんだよ!」

「これ以上、アマータを悩ませるな! ここでこちらがうじうじと悩んでいたら、可能性もなくなるだろう!」

「可能性……?」

「そうか……そうね! 私達じゃ戦力にならないし、むしろ足手まといになっちゃう。だから、ここからいなくなってアマータが私達を気にせず動けるようになる!」

「あぁ、重荷がなくなれば自然とな。だから、信じて待つんだ。アマータを」


(信じて待つだなんて、そんな……)


 私達以外に人の姿がないのも、家族団らんの場にこの化け物が落ちてきたことも――全ては私の願いを叶える為だ。滞りも妨害もなく、進めることが目的だから。


(この化け物は、きっと私が死ぬまで倒れることはないでしょう。何度だって蘇る。奇跡を起こす隙を与えないくらい。それが、私の望んだこと。何もかも私が悪いのよ。罪人だわ、無関係の人を巻き込んでまでこんなこと……)


「じゃあ、アマータ……私達は役立ちそうな人を呼んでくる。だから、絶対! 絶対、頑張ってよ! 約束だから!」

「え、えぇ……」

「行くぞ」

「馬鹿アマータ! かっこつけてんじゃねぇぞ! 後でお仕置きだ、馬鹿-!」


(お仕置き……お尻ぺんぺんかしら?)


 三つの足音が遠くに消えてくのが分かる。もう会えない。約束は果たせない。寂しい、苦しい。


「ごめんね……」


 これから先は、彼女達だけでも十分に幸せに暮らしていける。そこに、私はいらない。短い間だったけど、夢のようなひとときだった。未練を抱いてしまうくらいに。


「ううう……あァァァ!」


 化け物の叫び声が響く。苦しみを訴えるような声色。抱える不快感を、私に向ける気に満ちていた。体勢も整え終えていたようで、モニカ達を逃がせていて良かったと思った。これで、後は――。


「貴方も苦しいのね。私も同じよ。こんな気持ちになるくらいなら、あんなこと願わなければ良かった。お互い、苦しみながら――死にましょう」


(でも……もしも……)


 無理だと分かっているのに。私の足は、その化け物を討つ為に走り出していた。出来たとしても、相打ちで終わればいい方だ。奇跡も偶然もない。そんな力は、私にはない。

 

「うらぁぁあぁっ!?」


 あるのは、誰かが起こす力がこの場で輝くのを願う愚かな心だけだ。

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