オレらは家族
―アマータ 街 夕方―
いくら単純な動きを繰り返すといっても、油断大敵。守るものが近くにあれば、自然と意識がそちらばかりに向いて本末転倒になりかねない。ならば、逃がられる内に少しでも遠くに行かせておきたかった。
「嫌だよ、そんなの! アマータも一緒じゃなきゃ、嫌だ! アマータも一緒に家に帰るんだ! だって、家族だろ! 家族なのに、見捨てるなんてオレは認めないぞ!」
私の言葉に対して、一番最初に返事したのはいつも皆を振り回す三男坊だった。今にも飛び出して来そうだったが、モニカが腕を掴み抑えていた。
「いいえ、違うわ。私は、ただの部外者よ。あの家に帰るのは、貴方達だけでいいの。貴方達の厚意に甘え過ぎて、ここまで来てしまったわ。これが、いい機会よ。この化け物は、私を殺す為に来ているの。いずれ来ると分かっていたのに、貴方を巻き込んでしまってごめんなさい」
「そんなことないっ! アマータは、私達の大事な家族よ!」
(なんて優しい言葉なの。ここで終わってしまうのが寂しくなっちゃうじゃない……)
彼女らを見ていたら、あの温かい家に帰りたくなってしまう。だから、彼女らの言葉を背中で受けとめ、化け物だけを視界に入れることにした。
「私達のお父さんで、お母さんだもん!」
「何言っているの? お父さんはともかく、お母さんはそこにいるでしょう」
「オレらのお母さんは二人いるんだよ!」
「そんなのモニカに失礼よ……」
「そんなことはない。アマータは、とても頼りになる。一人では分からなかったことも、出来なかったことも、お前と一緒なら成せた。自分にとっても母親のようだった。なぁ、何故そっぽを向くんだ。こっちを見ろ」
泣きたくなるほど、温かい言葉だった。私は振り払うように、慌てて首を横に振った。
(見れない。見れるはずがないじゃない。情けないじゃない……)
どうして、こんな時に限って両想いになってしまったのだろう。離れるのも、死ぬのも怖くなってしまう。とっくに受け入れていたことなのに、覚悟だって改めて決めたのに。
せめて、私の一方的な片思いだったのなら、苦しむのは私だけで済んだのに。両想いになってしまったら、お互いが同じ苦しみを背負うことになってしまう。
「なんでだよ! オレら、家族だろっ!?」
『――んでだよ! オレらは家族じゃねぇのかァ! なんで、オレも連れてってくれねぇんだよ!』
張り裂けるような音と共に、記憶の奥底から幼い子供の声が響いた。
(な、何? 今のは一体……)
声の感じは違ったけれど、喋り方はバランサのものによく似ていた。
(でも、家族だなんて……あの子はそんな風に思ってなかったし、言われた経験もないけれど)
だが、それ以上のことは何もなく、気にし続ける余裕もなかった為に考えることはやめた。今は、自分のことよりも彼女らのことを優先しなければならない。
「家族……家族だからこそよ! お願い、分かって。私の気持ち! わがままを聞いて! 貴方達には傷付いて欲しくないの! 貴方達の顔を見たら、甘えたくなってしまうの」
「でも、もう化け物は倒れてるわ!」
「あの程度で化け物は死なないの。ほら、もう動き出したわ。モニカの足では逃げるのも時間がかかるし、子供三人で移動は大変よ。私は、そんなに強くないの。守りながら戦えない」
化け物は、興奮状態に陥っていた。形状を変化させながら、体勢を持ち直そうとしている。もう時間がなかった。どうにか二人だけのフィールドにと焦燥に駆られていた。すると――。
「分かった。家族として――その思いを尊重する」
モニカは、声を絞り出して言った。




