鍛え抜かれた体
―アマータ 街 夕方―
やはり、纏うものはなるべくならない方がいい。動きやすくて、解放感があるから。
「何故、脱いだ!?」
「なるべくなら、ありのままでいたいもの!」
「上半身裸なんて風邪引いちゃうわよ!」
「恥ずかしい、恥ずかしいよ! アマータ!」
「おんぎゃぁあぁあっ!」
(まるで人を露出狂みたいに……)
「皆を守るには、動きやすい方がいいでしょう!?」
「だからって、何も下着まで脱がなくてもいいんじゃないのか!?」
「いいえ、脱がなきゃ駄目よ!」
最初から、私はこの恵まれた肉体を持っていた。腹筋も割れて、腕や足の筋肉も異様に発達している。それが不服でたまらなかった。私の求める美しさに反していたから。きっと、鍛えなければすぐに筋肉も落ちていただろう。
しかし、無意識の内に鍛えてしまうという変な癖で、今なおこのボディを維持している。何なら、より引き締まってきている可能性がある。
(この体を役立てる機会なんて、もうここしかないわよね。嫌で嫌でたまらなかったけど、皆を守るには最適だわ!)
「貴方達、この子怯ませるまで下手に動かないで! そして、モニカ! 申し訳ないんだけど、何とかして赤ちゃんを落ち着かせてくれる? 子供達もしっかり守ってね!」
あの化け物の習性が今までのものと変わりないなら、恐らく動くものに敏感であるはずだ。ここで、やたらと動き回るものが私だけであったなら、恐らく引き付けられるはずだ。初期段階であるならば、知性も皆無。単純な動きだけでも、問題ないだろう。
「……いいだろう、上手くやれよ」
少しの間を置いて、モニカはそう言った。
「えぇ! 任せて頂戴!」
託されると、力が湧いてくる。使命感という薪が、心を燃やす。
「さぁ、獲物はこっちよ! 肉がもりもりの方が大好きでしょ! 食べ応えもあるってもんよね? でも、そう簡単には食べさせてあげないけどね!」
鍛え抜いてしまった肉体。それが映えるように、私はゆっくりと移動しながら様々なポージングを披露する。少しずつ、モニカ達から距離を取る為に。
「見なさい! 貴方には、相当魅力的でしょ! 美味しそうでしょ! 脂もたっぷりよ!」
そして、化け物は見事にこちらの思惑にはまってくれた。ちょうど、泣き声が小さくなってくれたことも幸いした。
「ウ゛ルルル……ガァアァァッ!」
うめき、叫びながらこちらへと突進してくる。びちゃびちゃと形状を変化させながら。
(化け物の急所は……眼球!)
私は拳を作り、一点を見つめる。どろどろの体から覗く、二つの穴。それが目だ。
「ハァァァッ!」
意識を集中させ、拳で化け物の眼球を力いっぱいに殴った。
「ギャゥ!?」
抗われることなど想像も、いや想像する頭すらない化け物は呆気なく吹き飛ばされ、その場に転がる。
「すっげぇ――」
「大きな声出さないでよ、無駄になっちゃうから」
(化け物が怯んだ、今がチャンスだわ)
化け物に注意を向けつつ、私はモニカ達に言った。
「今がチャンスよ、逃げなさい――」




