幸せは僅か
―エトワール 街 夕方―
あの日からほぼ毎日、彼らは日が暮れるまで色々な所に出かけては家族としての時間を過ごした。遊園地に、動物園、水族館、魚釣り、キャンプ、登山……非常にアクティブだった。モニカが難しい時は、特殊な魔術を使用しながらであったが、とても有意義な家族団らんの時を過ごしていた。
モニカ達にとっては、今までのものを補う為の貴重な時間。アマータにとっては、余生の謳歌。
(この差は、何どこから生まれているのだろうな)
彼らを集中して長く観察していると、そんな疑問が湧き上がる。
(俺達と過ごしている時と、彼女らと過ごしている時ではまるでアマータの表情が違う)
モニカ達とアマータ、本来は全くの他人だ。血のつながりなんてない。なりゆきで出会い、それからずっっと一緒にいるだけだ。時もそんなに経過していない。
俺達家族は、世界の除け者という共通点がある。過ごしている時間なら、モニカ達よりもずっと長い。それなのに、溝は決して埋まらない。家族であると皆に言い聞かせても、だ。種族や時間、志――それが同じだけでは家族にはなれないらしい。となると、家族とは何なのか。俺達に欠けているものは、一体何なのだろう。
「これだけ遊び続ける日々というのは、いつぶりだろう。いや、初めてかもしれないな」
アマータに手を取られながら、モニカは夕日に目を細める。すると、それを聞いた娘が反応する。赤子が眠る彼女の背中は、とても寂しそうだった。
「お母さん、お仕事ばっかりだったし……珍しくお仕事じゃない日は、男の人の所に行っちゃうし。本当のことを言うと、寂しかったよ。私達のこと、嫌いなんじゃないかって思ってた。別れた男の人の子供だから、私達のこと嫌いなんじゃないかって思ってた。お兄ちゃん達もそう言ってたから。愛されてるって思えなかったんだ。だけどね、だけど……そうじゃなかったんだね。あ~あ、もっと早くこうなってたら良かった。出来れば、普通の形で。でも多分、無理だったんだよね……」
「お母さんだって、間違えるわ。だって、生きているんだもの。これまでの過ちは消えないけれど、反省することは出来るわ。その為には、貴方達の力は必要不可欠よ。頑張りましょう、一緒に」
「頑張るぜ! えいえいおーっ!」
家族の中で誰よりも活発に動き回っていたというのに、弟は元気に飛び跳ねる。
「毎日毎日遊びまわって、そのテンションって……馬鹿になってんじゃない?」
「馬鹿でいい。馬鹿であればいい」
「も~お母さん、あんまり言うと調子乗っちゃうから――」
遠くから見ていると、実に幸せそうだ。けれど、この夢のような時間ももう終わり。一緒なのは、今日までだ。
(残酷だが、それも定め)
俺は一つ息を吐いて、ヴィンスから受け取ったものの封印を解く。そして、毒々しい光を放つ石を彼女らの前に投げた。




