破壊の龍の変化
―エトワール モニカの家付近 朝―
こわばる体を動かし、頭を下げる。それが、俺に咄嗟に出来た唯一のことだった。この龍は破壊を司る。下手に立ち回れば、体を破壊されてしまうだろう。現に、それをやられた奴が隣にいる。あんな体験をしたのだから、流石にと思ったのだが――。
「邪魔などするはずがありません! 貴方様の行く道こそ、私達の信じてきた道。それを疑問に思う理由がどこにありましょうか。この命ある限り、どこまででも付き従います! 何も心配はありません!」
ヴィンスは興奮気味に、怒りを滲ませる破壊の龍に歩み寄り、手を取った。その直後、一瞬だけ小首を傾げた。その行為が、理解出なかった俺もまた首を傾げる。
(また内臓を破壊されたいのか?)
そう思わずにはいられなかった。破壊の龍は、自尊心の塊だ。それはもう、この短期間の間でも十分に理解出来た。そして、他人を徹底的に見下す。穢れにまみれた存在だと拒絶する。それに触れられるなんて許すはずがないと思った。
「……貴様、即刻その手を放せ。吾輩の手は、軽々しく触れられるようなものではないぞ。汚らわしい」
ところが、破壊の龍は威圧するばかりで、ヴィンスの体を破壊する素振りは見せなかった。次、何かあれば全身を破壊する――そう忠告していたのを分身越しに聞いたのを覚えている。
(気まぐれか? でなければ、何なんだ?)
「あぁ……申し訳ございません! 興奮してしまうと、つい。しかし、この忠誠に偽りなどございませんから」
微笑みを向け、ヴィンスは離れる。
「笑わせるな、貴様程度の忠誠で何が出来るというのか。こんな小さな世界で、誰かに付き従うことしか能のない哀れな奴の成せることなど、たかがしれている」
嫌味たっぷりに、触れられた手を汚れを落とすように振る。
「まったく……穢れの気配が消え、こんな光景を見る羽目になるとは。興ざめだな。ガイア、帰るぞ」
「え、あ……はい! さ、さよならっ!」
そして、不快感を露わにガイアを引き連れて、すぐさま遠くへと去っていった。俺の目には、それが逃げたように映った。
「う~ん……ねぇ、なんか違和感あるんですよねぇ?」
その背中を見ながら、ヴィンスはそう漏らした。
「違和感……例えば?」
「さっき、手に触れた時、彼から動揺を感じたんです。あの感覚に間違いはないはずです。私相手に動揺するなんて、おかしいなぁと」
「ほう」
「一瞬だけだったんですが……」
「形は違うが、俺も違和感はあった。前に、内臓を破壊されたことを覚えているだろう。あの後、お前に次は全身を破壊すると言っていた。しかし、罵る程度で済んだ。あの龍がそれだけで済ませるのだろうか……とは思った。人間の体で、俗界で生活することでそのような変化が生まれたのか……」
俺は傍から見ただけ、ヴィンスは一瞬感じ取っただけ。お互いに核心に迫る情報はなく、推測の域を出ることはなかった。




