自らの目で見る理由
―エトワール モニカの家付近 朝―
「――という訳で、家族でどっか遊びに行かない?」
「という訳で、って言われても……今日元気になったばっかりなのに、急にそんな話を振られても」
少女は心配そうに、椅子に座る母親の顔を覗き込む。
「問題ない。気にすることはない」
「ほんと!? ほんとに本当!?」
うずうずとしていた少年が、その母親の一言を聞いて飛び上がる。
「嘘などつかない」
「でも……」
「心配するな。子供らしく、飛び跳ねて踊れ。なぁ? お前もそう思うだろう?」
いつになく優しい口調のモニカの腕の中には、赤子がいた。手足を動かしながら、母親の顔をじっと見つめる。そして、問いかけられると、眩しく笑うのだった。
「子供って、私もう十六歳なんだけどなぁ。そんなに、はしゃいだりしないよ」
「まぁまぁ、モニカがいいって言ってるんだからいいじゃないの。無理しない程度に、遊べばいいのよ。いざという時は、この私にどーんと任せてくれればいいんだから!」
アマータは、どんと厚い胸板を叩く。これほどまでに安心感を与えてくれる存在はいない。
「やったやった! どこ行く? 遊園地もいいなぁ~! あ、水族館もいいなぁ~。でも、動物園もかっけぇ動物いるって友達に聞いたんだよね~。魔術館も捨てがたい! どうしよ!」
大好きな家族と遊びに行ける――それを確信した少年は、頭を抱えて想像を膨らませながら、足をじたばたと動かす。
「何を悩んでいる? 全部行けばいいだろう」
「ちょっと!? 何言ってるの!? いくらなんでも、それは張り切り過ぎ! 第一、お母さんはずっと座ってたんだから!」
「流石に、一気に全部は無理だ。だが、日数をかけて何度かに分けて行けばいい。単純なことだ」
「単純って……もう……」
と、口では言っていたが、表情は喜びを隠し切れていなかった。
「わざわざ自分の目で見に来るなんて、よっぽど興味があるんですねぇ。この家庭に」
いつからそこにいたのか。観察をする俺の隣に、ヴィンスが立っていた。そして、いつもの薄ら笑いを浮かべる。
「詳細を知っておく必要がある。特にこの段階では。あれでは、全てを完璧に見ることは出来ない」
「あ、ついに白状しましたね」
「あぁ、もう隠すつもりもない。お前も気付いているようだし、それを得意げに何人かに明かしていたな」
「だって、すぐに殺されるし問題ないでしょう? 彼らを揺すって遊びたかったんですよ。ほら、絶望実験って奴です」
(その報告の後に、行方が掴めなくなっている方が気にかかる。今までにも何度かあったが……分身をいくつか作れば精度も落ちるから偶然と片付けていた。しかし、今回は何かしらの手段を用いて、こちらの詮索を避けているとしか思えなかった)
「問題はその先なのだが……まぁいい。それより……」
俺には、また新たに現れた二人組の方が気にかかっていた。振り返り、彼女らに聞いた。
「ガイア、何故ここにその男がいる?」
「ひっ、そ、それは……」
俺の問いかけに対し、しどろもどろになるガイア。破壊の龍の監視役を務めている。役に立っているかどうかは置いておいて、常に密着している。
すると、それが気に食わなかったのか――。
「吾輩の行く道に疑問でも? 態度がなっておらぬぞ、無礼者!」
その声色だけで、大地が凍てつく感覚ような感覚に襲われた。本能が危険を訴え、怖気づいてしまうほどだった。




