呼び醒ませ
―学校 夕方―
「よーし、お前ら! ジェシー大先生の特別授業の始まりだぜ!」
二限目の実技があった場所と同じ、大学の広大なグラウンドの真ん中に僕とリアムとジェシー教授はいた。
「わーい!」
リアムは両手を上に向けて、跳び上がる。
「はぁ……」
あれよあれよという間に話が進んでしまって、僕は断ることが出来なかった。リアムに会うのは、あの日以来だ。だから、気まずかった。何を聞かれるのか、何を知られているのか、ほとんど分からないから怖い。顔を合わせれば、すぐに空白の一週間を問われると思った。
しかし、ジェシー教授がいてくれていたお陰もあってか、出会い頭に追及ということはなかった。
「ど~した、タミ。俺とリアムと一緒だぞ? この大学……いや、この国、いいや、この世界随一の魔術と魔法の使い手のジェシー様がいるんだぞ? しかも、この俺がこんな時間まで大学に残ってるなんてことは絶対にないからな? 実際問題、生まれて初めて授業を持っていない時間にここにいる。奇跡だと思ってくれていいぞ。奇跡が起こるということは、お前達がツイてるってことだ」
「なるほど! タミ、俺達はツイているみたいだよ!」
(駄目だ。ついていけない)
このまま、ダラダラと話が進むのは良くないと思った。僕はバイトの時間を犠牲に、ここに立っているというのに。
「……さっさとやろう、リアム」
「うん!」
リアムは、大きく首を縦に一度振った。
「急に話の流れが変わったな。まぁ、いいが。リアムは初歩の初歩、基礎の基礎。この国では、物心がつく前から使える魔法の練習からする必要があんだ」
ジェシー教授は苦笑いを浮かべながらも、リアムの悲惨な状況を説明した。
(本当に……そんなレベルだとは。しかし、何故? リアムは、この国にずっと住んでいたんじゃないのか? それとも、魔法を使わない国から来た留学生? もしくは、魔法とかを使ってはならない宗教でもあるのか?)
あれだけ勉強の出来るリアムが、致命的なレベルで魔法が使えないという事実を何度聞いても驚いてしまう。
(まるで……最初この世界に来た時のゴンザレスのようだな。いや、でもリアムはずっとこの国にいる訳だし……)
「魔法が使えなければ、魔術は到底使うことは出来ないぜ。それに、魔術は使えなくても困らないが、魔法は使えねぇと他の国に行った時に間違いなく恥を……つーか、リアム、お前この国出身だろ。どんな生活してきたら、そんなことになんだよ」
本当にその通りだと思う。魔術が溢れ過ぎているこの国で、魔法が基本であるこの世界で、それらが使えないのは生活に支障が出るレベルだ。
「アハハ! それを言われたのはもう十二回目ですね!」
「いやいや、笑いごとじゃねぇし。この魔術大国と呼ばれる国で……ある種最強だな。だが、俺がお前を変えてやる。お前には意欲がある、そして仕組みを理解出来る頭脳も。お前に足りねぇのは、恐らく……感覚だな」
ジェシー教授は腕を組み、リアムをじっと見ながらそう言った。
「感覚……リアムには、それが理解出来ていないということですか?」
いまいち、僕には理解出来なかった。そんな感覚なんてなくとも、僕はずっと魔法を使い続けてきた。それに、誰だって最初は初心者だ。
だが、僕も周囲の人間も魔法を使うのに困難を極めたことはない。特殊な例を除けば、だが。
「正確に言えば、体が魔法を使う感覚を理解出来てねぇってことだ。ずっと使ってなきゃ、もしくは使ったことがなければそうなる。後は、周りに魔法を使う環境がなかったりな。珍しい奴だ……さて、タミ。この筆記王に浮遊の魔法を教えてやれ。それが、こいつの課題だ」




