赤子の如く
―ファートゥム 公園 早朝―
「いや、何? 急に泣くなよ。気持ちわりぃなァ。つか、知らなかったにしても今の今まで気付かねぇのもどうなのさァ」
「ごめんなさい」
とことん鈍い自分が嫌になる。役職の入れ替わりや、それに伴う役職の剥奪は何度もあった。特に後者は、もう二度と姿を見かけることはなかった。きっと、羞恥のあまり組織を脱退したのだろう――そう思っていた。
何かがおかしいと感じ始めたのは、役職を持つ人達が減っていく一方になったからだ。それまでならば、いなくなったらすぐに補充されていた。いくつかある特別枠以外は、常にいる状態が維持されている。それが通常だった。
――次は、私かもしれない。
そう気付いた時には、既に手遅れだった。フレイヤとフレイが、アジトで亡くなった。十一番目になった破壊の龍の怒りに触れて、アジトごと押し潰されて遺体の回収すら出来なかった。予期せぬ出来事だったとボスは言った。予想の範疇を超えていたと。
『――でも、他は誰も怪我してなくて良かった。それだけが救いだね。それに、彼らの願いは……ちゃんと叶えられた訳だし、きっと幸せな最期だったさ』
本当に予期せぬ出来事であったなら、もっと犠牲があったはず。ボスの予測能力の高さを、組織に属する人達はよく知っている。だからこそ事前に準備されていたとしか、私には思えなかった。ボスの言うことが信じられなかった。
そこから思い出してみれば、最近は役職が下から順番に剥奪されている事実に気が付いた。十九番目から十七番目が重大なミスを犯したとしてまとめて消えた。その次には、デザイアの魔女の一件で十六番目と十五番目が消えた。そして、今回は十二番目と十三番目――偶然にしては出来過ぎていた。
「まァ、泣きたくなる気持ちも分かるぜ? 信じてたものに裏切られちまうってのはァ、すがってたものを失うってことだァ。一人歩きが出来ねぇ赤子から、急に支えを奪ったら倒れて大泣きだもんなァ。てめぇも学習出来たなァ。んで? 今度はオレにすがって、何をどうしたいってんだァ?」
バランサは薄ら笑いを浮かべて、私の愚かさを皮肉る。その通りだった。私は、いつまで経っても独り立ちが出来ない。ずっと誰かに頼って生きてきたから。情けないと思う。それでも、この現状を打破するにはどうしても一人では出来なかった。実力は、現状を映す鏡だった。
「逃げたい。逃げたい。守りたい。私は、弱い。であるからして、バランサの力、下さい」
改めて、何とか宣言した。覚えた言葉を必死に思い返しながら。己の覚悟を示す為に。
「あァ。分かったぜ。じゃあァ~このオレがァ計画考えてきてやるよ」
「え、でも……」
「任せろって、なァ? 八番目にどんと任せろよ。オレが支えになってやらァ」
バランサは、私のくちばしを一度つついて、そのまま有無を言わせず去っていくのだった。




