夢が叶うのは夢だけさ
―バランサ 公園 早朝―
オレは、あの真っ白男が嫌いだ。理由は一つ、その全てが気に入らない。単純にそれだけだ。生理的に無理なのだ。ここまで嫌いになった奴は生まれて初めてだ。全てを見透かしたような目、態度、表情……今思い出すだけでも虫唾が走る。
「フレイとフレイヤ、死んだ。悲しい。怖い。逃げ……る。皆、ボスの好き。私、悪い。皆、怒る。しかしながら、バランサではいい! 私では弱い! バランサ、助けて!」
オレに振り向いて貰えたのが余程嬉しかったのか、次第にファートゥムはテンションを上げていく。支離滅裂さが増していた。
「ん、ま、要するに……裏切りたいってことだよなァ。でも、オレ以外の組織以外の奴はあいつに忠誠を誓っているし、そんなことを漏らしたらヤベェってことなァ? で、このオレに目を付けたと。忠誠心も皆無、むしろ嫌悪すら抱いてる。そんなオレならァ、力を貸してくれるような気がする……と」
(その着眼点と魂胆は嫌いじゃねぇ。嫌いではねぇがァ、それってオレがこいつに尽くすってことになるよなァ? オレは尽くしたいんじゃねぇんだよなァ、尽くされてぇんだよなァ。その身を焦がすくらい、骨の髄まで、命を散らすくらい。それが逆になるってんのはァ、ため息が出るくらいつまらないよなァ。あァ、あァ。でもなァ、嫌いではねぇんだよなァ)
「はい、はい! お願いされます! 分かっ、分かられます! カァッ……だから、助けて!」
(そうだなァ。最終的に、オレに尽くした形になるようになりゃァいいのか。よし! 腹括ってやるかァ!)
「その熱意、いいなァ。オレ、嬉しいぜ。頑張ったんだなァ。そこまでして、生きたいって思ったんだなァ」
「私は、知りませんでした。死ぬこと」
「あァ? じゃあ、いつ知ったんだァ?」
「最近のこと」
「そりゃ可哀相に。言葉巧みに招かれて、ほいほいと来た訳だなァ?」
「一族の復活、カラスの繁栄……私の幸せが、最後にあるなどと」
その幸せは、多分現実にはない。あいつは未来を願う連中に対しては、真実に適度に嘘を混ぜる。そうまでして欲しい人材だったということだが、不要になれば手向けに望みを添えて、容赦なく切り捨てる。死を望みとする連中は、その真実をしっかりと受けとめて傍にいる。実際にその時が訪れると、気変わりする奴もいるけれどマジで頭がおかしいと心から思う。
「なるほどなァ、てめぇはそう言われて釣られた訳かァ。惨めだなァ。その幸せはァ、現実にはねぇさァ。ボスの最終目標知らねぇんだァ? なら、教えてやるわァ。あいつは、この世界を終わらせるつもりなんだぜ。一切の苦痛を味合わせずに、一瞬で。で、その協力者として特別に夢を叶えてやるってんだァ。夢が叶うのは、夢ん中だけさァ」




