努力の証
―バランサ 公園 早朝―
「――んだよ、こんな朝っぱらからオレを手紙で呼び出してよぉ。告白かァ? わりぃけど、好みのタイプじゃねぇんだわァ」
アジトが崩壊して、オレ達はそれぞれ別々の場所で過ごすこととなった。そんな時、突然ファートゥムから手紙が送られてきた。
『親愛なるバランサへ。わたしは、はなしする。バランサのホテル、こうえん、まつ。ファートゥムより』
そこには、まるで子供のような拙い文字と文章でそう記してあった。読み取れるギリギリのライン。正直、行くのは面倒だった。話は通じないし、仲良くしたいとも思わない。オレより下の役職の奴からの呼び出しに応じる義務はないから断ることだって出来た。
ただ、その手紙をゴミ箱に放り投げる数秒前に思い直し、ホテルの隣にある公園へと足を運んだのだ。
「カッ!? カカカァ!? カカカッカ!」
ファートゥムは顔を赤らめ、羽をばたつかせる。漫画みたいに分かりやすく、感情の変化が読み取れることだけが奇跡だ。その奇跡がなければ、マジでコミュニケーションなんて取れない。まぁもう取る気も、たった今なくなったが。
「いや、何言ってんのか全然分かんねぇなァ」
言葉がなくても繋がり合える――とか綺麗過ぎて、反吐の出るどこかの誰かの名言なんてクソくらえだと思った。そんな綺麗ごとが通用していたら、この世に争いなんて生まれていない。言葉があっても繋がり合えないのに、とんでも理論だ。
(ん~こんな奴から手紙が送られてくることなんてないって直前に思って来てみたけど……まァ、話はまるで理解出来ねぇし、気のせいだったかァ。つまんね、帰ろ)
時間の無駄だと背を向けて帰ろうとした時――。
「まって! クァ……バランサ、だけ……頼る!」
腕を掴まれた。必死に言葉を紡ぎ、このオレを留める為に。そこまで、オレは非情な奴じゃない。感動もするし、心が動かされたりする。現に今――そうだから。
「今、お前がァ? 練習したのかァ……?」
あんなに喋れなかった奴が、あんなに一方的だった奴がこのオレとどうしてもコミュニケーションを取りたくて歩み寄る。オレの為に尽くそうとする奴は好きだし、実際に結果を出す奴はもっと好きだ。気が変わった。話を聞いてやろうと思えた。
「バランサだけ、頼る。頑張った、聞いて」
振り返ると、ファートゥムが目に涙を溜めて訴えていた。
「何を? なんで? なんでオレだけなんだァ?」
「皆……ボスの、カァ……好き。許されない、でも、バランサは――」
「あぁ、そういうことか。オレは嫌いだからなァ。あいつのことがァ。つ~ことは、あんまりいいことじゃねぇなァ? ヘヘヘ、より興味が湧いてきたぜ? 話してみろよ。その努力に免じて、オレも歩み寄ってやるからよ……」




