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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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想いは、その手に届かずに

―N.N. アジト 夜―

 上にある城が喧噪に包まれる中、自分は一人で崩壊が進むアジトの中を歩いていた。


(やれやれ、他の者を先に避難させて正解だったな、これは。まぁいいか、証拠が消せるしね。範囲がアジト内だけで済んで良かった。さてさて……)


 落ちてくる瓦礫を魔法で弾きながら、ようやく一つの部屋に辿り着いた。もう入り口である扉もなくなっている。


(完全に潰れてしまうのも時間の問題だな。急がないと)


 部屋があったと知らなければ、その存在にすら気付かないだろう。文字通り、瓦礫の山だった。


「え~っと……あ!」


 その中に、ぽつりと不自然に綺麗な場所があった。そして、そこに見慣れた二人が倒れていた。急いで駆け寄ってみると、フレイヤの方はかろうじてまだ息をしていた。しかし、生命維持に必要な魔力まで使い切ってしまったようだ。加えて、左目に突き刺さった瓦礫の破片が痛々しさを感じさせる。

 一方のフレイの下半身はなく、左目から血を流し、苦悶の表情を浮かべたまま既に事切れていた。触れてみると、すっかり冷たくなっていた。


「フ、レイ……ば、か……」


 虚ろな目で、フレイヤは手を伸ばし、こんな時にまで兄を罵る。悲しいことに、もうその売り文句を買ってくれる人物はいない。


「責任……と、って……よ。うち、は知らない……から」


 片目が潰れ、意識も朦朧としている状態では、ほとんど見えていないのだろう。伸ばした手は、無情にも届かない。それを見ていると、もどかしさと悲しさで心を裂かれるような気分になった。最終的な結末は分かり切っていたことだけれど、共にいた者達の死を見届けるのは悲しい。


「なん、と、か……言いなさいよ。ねぇ……? フレイ……」


 その小さな手は、結局届くことはなかった。そのまま、静かに命の花を枯らした。


「……あぁ、可哀相」


 最期の最後まで、何も成せなかった彼女を不憫に思い、兄の手を握らせてやった。もうその感触を感じることはないだろうし、すぐに崩れるから何も残らないけれど。


「彼らをここに運んだのは、貴方ですか? それとも、偶然こうなったのでしょうか」


 弔いを終え、瓦礫の山の上で佇む般若の面をつけた男に問いかけた。


「偶然だ。このような穢れに満ちた馬鹿共に、配慮などする必要はない。それくらい、予測で分かるだろう。この辺の馬鹿とは違うのだから」


 こちらが話しかけるまで何も言わず、ただずっと見ているだけだったのが不思議だ。彼は話したがりだ、主に己の偉大さについて。勝利したのだから、自分がここに来た瞬間に伝えてくると思っていた。

 ただ、その態度は相変わらずであるし、そこまで仲がいい訳でもないし、そういうこともあるのだろうと受け流すことにした。


「ハハ……イレギュラーばかりが起こってまして。もう予想の範疇超えてて、刺激的……じゃなくて、驚いてるんですよ」

「そうか、まぁどうでもいいが。それで、吾輩はお前の要望には沿えたのか?」

「それは、勿論。彼らの大人になりたくないという夢は叶えられました」

「それにしては、少々表情が暗いが」

「あぁ……そうか、見えるんですよね。感覚で」


 目の部分を封じられているのに、その感覚で捉えられたら全てを見透かす。誤魔化すことは出来ない。機嫌も損ねたくないし、素直であるべきだ。


「慣れないんですよね、やっぱり。どれだけ罪を重ねても、穢れても……この感覚だけは。辛いなぁ」

「そうか。そんなことはもういい、早く吾輩をここから出せ。これ以上、魔力は使いたくない」

「……分かりました、急ぎましょう」


 そして、彼を連れて、ひっそりとアジトを脱出するのだった。

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