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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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罪人の力

―? ?―

 その緑色の光明に一縷の希望を託す。近付くにつれて、これが太平の龍によく似た力を持っていることが分かる。


「太平の龍の力なのか? これは……でも、どこかちょっと違う。不思議な感じがするな」


 何にせよ不穏なものではない、という安心感から進むスピードが自然と上がる。そして、ついにその光に届いた時――。


「紛い物程度の力で、ここに戻らされてしまうとは。早く肉体を取り戻さねば。一刻も早く、この世界を破壊せねばならぬのに……」


 温かな光には似合わない、禍々しい球体がそこに浮いていた。破壊と創造を司る龍のものだ。僕の体を奪った張本人。どうやら、この光の影響で手放さざるを得なくなったようだ。チャンスだ、これは。


「驕らないで下さい。体は、僕のものです!」

「まだいたのか。早く消えておれば良いものを」

「そう簡単に消える訳にはいきません。僕は……やらなければならないことがある!」

「笑わせる。罪人如きの使命と、吾輩の崇高な使命のどちらが尊重されるべきか分かるだろう。絶対的な使命だ。吾輩の存在意義そのものと言っていい。むしろ、光栄に思うといい。罪人という立場でありながら、器として選ばれたことを」

 

 彼の主張は、この世界的には正しいことなのかもしれない。けれども――正しさが、僕の思いを阻むなら、それに従うことは出来ない。


「……それを受け入れることは出来ません。僕と、貴方の思いは相反している。使命の重さも価値も違うのかもしれない。でも、僕の使命は……僕自身で決めたことだ! 国を守ること、民を守ること、家族を守ること……全て! 最初は、貴方のように与えられたものだったかもしれない。でも、もう違う。僕自身のものだ!」


 嘘偽りのない、僕の本心。思ったことが全て口に出てしまう世界。ごまかしも嘘も通用しない。だから、僕自身でも驚いていた。これが、僕の決意なのだと。堂々と言えるほどのことをしていないから、無意識の内に押し殺していたのかもしれない。


「都合がいい。では、庶民に生まれていても同じようなことを考えたのか? いいや、そんなことはありえない。課せられたから、従ったまで。それを自分で決めたことだと? 滑稽だな。吾輩は、貴様の中にいたからよく分かるぞ。貴様自身が、この世界の穢れを一番よく分かっていることを。知らず知らずの内に、建前が本音になってしまうとは、哀れなものよ。嘆かわしい。せめての餞別に、吾輩に身を委ねよ。さすれば、その歪んだ思想から解放される」


 遠回りにも程があったけれど、一時的に体を乗っ取られたことは結果的に良かったのかもしれない――そう自信をもって言えるよう、僕は行動に移す。


「無礼なっ! 貴様……その穢れた手で、吾輩に触れるなっ! 折角、貴様には同情を覚えていたというのに……あの馬鹿共と一緒だな!」


 深いことは何も考えぬよう感情のままに、その球体に迫り、両手で掴んだ。触れたその瞬間から、自分ではないものの感情や思想が濁流のように襲われるも、決意を胸に自我を保ち続ける。


「ぐあぁぁぁっ! っ、あ! 負けない、貴方には! 馬鹿でも何でもいい! 間違いでもいい! 力では負けても……思いの強さだけで負けたりしないっ! 貴方の意識を取り込み、僕は……勝つ!」


 最初は、託され与えれたものを惰性で行っているだけだったかもしれない。面倒だと、逃げたいと思ったことだってあった。望まぬものを無理矢理押し付けられている、そう感じていた。自覚が足りなかったのだ。

 ここに来て傲慢な者達に囲まれたことで、少し驕るくらいがいいと思うようになった。王になれるのは、その権利を有するのは僕しかいない。国を守る為、託されたものを守っていく為に最善な策なのだと。


「馬鹿な、馬鹿な……謀ったのか? あの馬鹿共と……吾輩を弱体化させ、意識を――」

「知りません、そんなのは! 謀られたと感じるなら、それは貴方の怠慢が招いたこと! 罪人を……甘く見た貴方の弱さ! 破壊は認めない! このままの世界を……僕は守り続けてみせるから!」


 次第に、意識の濁流が落ち着いてくる。それと同時に、どこかに強く引っ張られる感覚を覚えた。


「愚か、な……なんとも、嘆かわしい……」


 それが、ここで聞いた最後の彼の弱々しい、悲しみに満ちた声になった。

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