やる気は空回り
―学校 朝―
「こらあぁぁぁ! 集中しろぉ! これは練習だが、練習じゃねぇ! 魔法やら魔術を実際に使う時は、常に本番だと思え! タミ!」
ジェシー教授の大きな声で、僕は現実に呼び戻される。
「す、すみません!」
金曜日の二限目は、実技の授業だ。魔法や魔術を実際に使うことが出来る、唯一の授業。学生一人一人に合わせて、その内容は異なる。それぞれが他の授業で習った魔法などを使っている。
ちなみに、今回僕がやっているのは風の魔法だ。超がつくくらい初歩的な魔法、これをかなり前の基礎魔法の授業で習った。どういった仕組みで魔法が発動するのか、それを記号ばかりの式と面倒臭い専門的な言葉で長々と説明される。
分かり切ってることを、分からない言葉で説明される。これほどの苦痛はない。
「そんなにぼさっと出来るんだ、もう風の魔法は完璧に全て使いこなせるんだろうな」
「え、えっと……」
風の魔法を完璧に全て使いこなせるかと聞かれると、すぐに頷くことは難しい。風の魔法は風が関わる全ての魔法の総称のようなもので、その中に入っている魔法は沢山ある。全てを完璧に使いこなせるほど、僕は魔法を練習していない。
それに、僕は感情が高ぶるとすぐに風の魔法に直結して暴発させてしまう。こんな状態で、自信に溢れることは難しい。
「おいおい、出来ねぇのにぼんやり魔法を使ってたのか? やれやれ……」
教授は呆れ交じりに、しっかりとヘアセットされた光り輝くベリーショートの茶髪を撫でながらそう言った。
「折角、すば抜けた使い手だってのに……そんなんじゃ、宝の持ち腐れだぞ」
「僕は大したことありません」
「謙虚だな。調子に乗らないのはいいことだ」
調子に乗らない、弱者はそうすることが生きていく術だ。
「調子に乗る資格はありません」
「暗いなぁ、折角自分の腕を大胆に試せる機会だってのに。それに、お前はこの学校で俺の次に強い魔力だと思うぞ? ほら、自信持ってもっと気分を上げて行こうぜ」
「教授の次……」
「おや、不服か?」
「いいえ。僕なんかが……だって、もっと優れた人はいるじゃないですか。先輩だって沢山いるのに。同級生だって、僕よりもずっと。例えばリアムとか」
「あぁ……奴ねぇ」
すると、突然教授は顔を曇らせる。先ほどまで、気分を上げていこうぜとか言っていたのが嘘のようだ。
「奴はちょっとなぁ~うん。やる気は感じるし、怠けてはいねぇんだが……実力が伴ってねぇんだよ。筆記に関しては間違いなくトップなんだろうが、実技に関してはお子様だな。もしかして、奴と友達か?」
「え……あ、あぁ。そ、そうですね」
「んだよ、はっきり答えろ。友達なんだな?」
少し詰まってから答えた僕に苛立ちを覚えたのか、教授はもう一度僕に問う。
「はっ、はい!」
「奴に教えてやってくれ。友達に教えて貰う方が、覚えやすかったりするだろうし」
意外だった。あの学生の鏡のようなリアムが、入試で優秀な成績を修めたリアムが、実際に魔法などを使うことを苦手としているなんて。




