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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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独り言

―? ?―

「あ゛あ゛っ! もう!」


 アルモニアさんの叱咤を受けてから、僕はずっと必死にもがき続けていた。しかし、僕は未だこの場に留まり続けている。何が足りないのか、何をどうすればいいのか、明確な答えなどどこにもなく孤軍奮闘する。


「あら、もうおしまい? ま、お疲れって感じで」


 鼻につく笑いを浮かべて、アルモニアさんは煽ってくる。ストレスの根源。人の心に土足で入り込んでいるのだから、遠慮というものを身に着けて欲しい。


「あら、ついに無視? 別にいいけど」


 相手にしている時間すら惜しい。一刻も早く、僕はここから抜け出さなければ。この体は、僕のもの。他の誰のものでもない。これ以上、好き勝手させてはいけない。


「なんで、出られないんだ……」

「なんで、出られないんでしょうねぇ。不思議ねぇ。ずっと頑張ってるのにねぇ。可哀相だわ。私様も同情しちゃう。こんなに足掻いてて、どうにもならない人っているのね」

「はぁ……あの、もう放っておいて貰っていいですか。僕も暇じゃないので」

「一人ぼっちは嫌なくせに。こういう時だけ、都合がいいのね」

「関係ないでしょう、はぁ……」


 集中が途切れてしまう。相手にしまったら負けなのに。僕が弱いせいか。雑念を振り払い、周りに視線を向ける。と言っても、同じ景色が続くばかり。少しくらい、どこかに綻びがあってもいいものなのに。


「今から、どこかに綻びでも生まれてくれればいい……っ!?」


 そう思った時、強く何かに殴られたような衝撃を覚えた。痛みはなかった。ただ、衝撃があっただけ。アルモニアさんが何かやってきたのかと思ったが、彼女はその場から一切動いていないし、同じように驚いていた。


「一体何が……さっきよりなんか、明るい? あっ、あれは!」


 違和感を感じ、見上げてみると、緑色の光が僅かに差し込んでいた。


「良かったじゃない、綻びよ。何かしらね、なんか独特な感じ。どうするの、貴方は」

「行ってみます」


 怖い、怖くてたまらない。でも、行ってみなければ、何も変わらない。僕は変わる。変わるって決めた。


「な~んにもなかったらどうするの? 取り込まれちゃったらどうするの?」


 光明に向かおうとした僕を、彼女は食いとめてきた。


「足掻けって言ったのは、貴方じゃないですか。どうして、そんなことを今更言ってくるんです?」

「面白いから煽ってただけよ。貴方にとっても、ここで飲み込まれちゃった方が楽なんじゃない? 苦しい現実しか待ってないわ」

「決めつけないで下さい。もう限界なんて気にしない。僕の限界は、すぐそこにあるから。もう見ない。僕は行く! 守らないと、守るんです。形あるものも、ないものも全て! 絶対に! だから、ここで消える訳にはいかないっ!」


 生半可な覚悟ではないと、彼女の瞳を見つめて言った。


「そう……じゃあ、行けばいいわ」


 彼女はひどく呆れていた。そんな彼女の体が、突如として透き通り始める。一体何事なのかと問いかけようとしたが、それよりも先に彼女が答える。


「意思が弱い方が負けるだけよ。ま、元々外から来たから不利ではあるんだけど。まさか、ね。仕方ない、甘んじて受け入れるわ。絶望しても……知らないから」


 それだけ言い残し、哀れみを向けながら消えた。場が一気に静まり返る。


「し慣れてますよ、そんなもの……とっくにね」


 彼女がいない今、ただの独り言になってしまった。まとわりついていたハエが、ようやく消えた時の清々しさ。僕は、光に向かって飛び出した。

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