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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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相打ち

―フレイ アジト 夜―

 フレイヤの歌が終わった。その直後、俺の展開していた土塊が溶けるように消えた。


「なっ……ぐあっ!?」


 破壊活動に勤しんでいた奴の手が、すぐそこにあるのが見えた。咄嗟に身を翻したが、左目を引き裂かれてしまった。視界が半分赤く染まる。


(失敗した!? 落ち着け、落ち着け。考えろ、考えろ)


「吾輩が砕く前に、消え去ってしまったではないか。兄の歌頼りだったのか、貴様の術は。まぁ、所詮は真似事。哀れだな」


(……いや、違う)


「哀れ? 哀れなのは――」


 遠くにいるフレイヤの背後に、ぼんやりと光を発する――龍の姿が見えた。


(ちゃんと出来てるじゃねぇか、馬鹿のくせに。まぁ、これくらいやってのけねぇと生きてる価値ねぇわ)


 動揺する心が落ち着いた。この世界の支配者である龍を出し抜けるかもしれない、そう思うと喜びが体の中を駆け巡った。


「てめぇだろぉが!?」

「あんたでしょっ!?」


 俺もフレイヤも、喜びのあまり素に戻ってしまった。しかし、もう必要ない。むしろ、ちょうどいいくらいだ。きっと、今から奴は混乱する。見えているイメージとは全く違うものが、そこにあるからだ。恐らく初めての経験だ、そう簡単には対策出来ないはずだ。


「何……が、何がどうなっている! 貴様ら、さては入れ替わっていたのか!? 見えているものが違う!」

「今更気付いても、もうおせぇんだよ。てめぇはここで!」

「うちらに敗北する!」

 

 奴は、ようやく背後にいる龍のイメージを捉えられたのか素早く振り返る。


「兄弟……? 太平の龍の……写し身か。あの精霊の歌は、そういう効果があるのか。意思も感じられぬな、随分と劣化したものだ。嘆かわしい。自由奔放な兄弟であることは、記憶の海で見ている。精霊達が、いざという時の頼りにする為のものであろう。見事な歌声であったが……その精度はいまいちだな。愚か者共!」


 その叫びの瞬間、部屋全体がみしみしと音を立て始める。


「吾輩を本気にさせたな……? 吾輩が、破壊を司る龍と知っての無礼だな? いいだろう、いいだろう。ならば、その身をもって体感させてやる。そうせねば、分からぬのだろう。何故か、未だに貴様らの正しいイメージが掴めぬ。ならば、この部屋ごと破壊する! 貴様らのようなゴミ屑に、ここまで時間をかけたのが馬鹿であったみたいだな!」


「「はぁ!?」」


 そんなことをされたら、俺達は一たまりもない。地下にあるアジトが破壊されたら、この中でぺちゃんこだ。ボスの――あいつの思惑通りになってしまう。


(フレイヤ、やれ!)


 絶対にここで決めるしかないと、合図を送る。


(そんなこと、言われなくても分かってるわよ)


 眉間にしわを寄せつつも、フレイヤは顕現させた龍を操り、奴へと迫らせる。


「セイクリッド・ディストラクション!」


 そして、奴は怒りを露わに呪文を叫ぶ。それとほぼ同時、その体を顕現させた太平の龍の緑色の手が貫いた。場が滅茶苦茶になっていく中、聞こえたのは断末魔と瓦礫に埋め尽くされていく世界、それと俺を呼び迫ってくるフレイヤの声――。

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