信じるのは己と
―フレイ アジト 夜―
土塊の中にこもった結果、当然ながら闇に包まれて視界は奪われる。しかも息苦しいし、暑い。かろうじて、音だけは聞こえた。フレイヤの歌声と、龍が力のままに土塊を破壊する音が。
(とりあえず、俺に興味を向けさせることは出来た。力は使うつもりはねぇみたいだな。殴って削って破壊しにきてる。魔力なしでこの威力とは気持ちわりぃ。あのなよなよの体で、ここまで出来るもんなのか)
フレイヤの加護もあり、そう簡単には破壊されることはない。しかし、それでも危機感を覚えるくらいの速度で奴は削ってきていた。
「嘆かわしい、何とも嘆かわしい。弱いと、逃げるしかない。守られるしかない。子供には苦しかろう。怖かろう。安心しろ、すぐにこの土共々粉砕してやろう」
(うっせぇなぁ……負けねぇ。我慢しろ。なくなれば、また作ればいい。フレイヤが、歌いきるまでの辛抱。そして、歌い終えれば……顕現させられるはず。間違いがなければ!)
こればかりは、残念な妹の頭を信じるしかなかった。これが出来なければ、今まで妹として扱ってやった意味がなくなる。託されたものを、体現出来るようにならなければ意味がない。覚えていると堂々と言い放ったのだ。成し遂げて貰わなければ困る。
(目には目を、歯には歯を。龍には龍を。あともう少し、あともう少しだ……)
微かに聞こえる歌声、それが消えるまでただじっと妹を信じて、心臓を吐き出してしまいそうになりながらも待ち続ける――。
***
―フレイヤ アジト 夜―
まるで、自分があの時の精霊になったかのような気分だった。あの美しくも儚い、泡沫の夢を再現出来ている。たった一度しか見ていなくても、うちの記憶には鮮明に残っている。
「――Iv gwr nnoetEthuo iku♪ Eig iho shtrek turnsnai♪」
全てが上手く行けば、うちらはもっと上にいけるらしい。うちは考えることが苦手だから、フレイに任せている。考えることは全部フレイがやればいい。失敗した時の責任は、考案者にある。最後の最後で、うちが勝っていればそれでいい。面倒なことは、兄がやるべきだ。
「Ne fJrioosc! Sdecdtdie tbyo hai!」
言葉の意味は知らない。きっと遥か昔の言語か、精霊達だけが操る言葉。聞いたままを聞いたように歌う。力強く、それでいて美しく。あの感動を呼び起こしながら、最後のフレーズを歌う。
「Knhig btee♪ Embdyo……♪」
最後に手を組み、ゆっくりと崩れ落ちる。一番最後は、花がしおれていくように弱々しく終わらせるのだ。うちは絶対に間違ってない。それを証明してくれるのは――。




