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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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精霊術

―フレイ アジト 夜―

 俺達の攻撃で吹き飛んだのは、奴の座っていた椅子。当の本人は、物凄い怒りのオーラをまとってこちらを見つめていた。趣味の悪い仮面のせいで、恐怖六割増しだ。


「どういうつもりだ、吾輩に危害を加えようとするとは」

「どっ――」

「どうもこうもねぇよなぁ。俺達はよぉ、てめぇにうんざりなんだよなぁ」


 俺を遮って、フレイヤが答える。むかついたが、兄としての威厳を見せて感情を押し殺す。

 相手は屑だが、実力は確か。ボスが世界の命運を託すほどのことはある。これくらいは想定内だった。それに、一週間ほど積み重ねた経験もあり、俺達はそのままお互いの演技を続けられた。


「うんざりだと? それはこっちのセリフだ。前回の反省を踏まえ、吾輩に敵意を感じさせず、攻撃をしてきたことだけは褒めてやる。だが、一度ならず二度までもこの吾輩に危害を加えようとした罪は重い。死して、その罪を償うしかあるまい。既に、貴様ら双子など生かすも殺すも吾輩の勝手だ」


 その最後の言葉に引っ掛かりを覚え、俺は問う。


「何よ、それ。どういうこと?」

「あぁ、知らぬか。詳しいことはよく分からないが、あの男はもう必要ないと言っていた。あの双子にとって満足する形で……と伝えられた。まぁ、死ねば満足も不満足も分かるまい。不敬にも程がある者達に配慮する理由は一つもないからな」


 直後、龍はフレイヤの方に顔を向けた。その言葉に偽りはないと感じた。ボスが組織の者達を信頼していないこと、俺らよりも後の役職は既に処分されている為だ。まさか、その時が奴に委ねられているとは思いもしなかったけど。


(切り捨てられたっ! 完全に! 望み薄だっ!)

(は!? どういう――)


 フレイヤの問いかけを無視して、俺は発動する。


「大地の精霊よ、力を!」


 俺が得意とするのは精霊の力を奪い、自らのものとすること。精霊は消滅し、それを司るものは廃れていく。アジトの上にある城の庭がどれだけ荒もうが、俺には関係ないし困らない。ただ一つ気にかかるのは、命を賭して力を貸してくれる者達のこと。


「アースウォール!」


 躊躇は弱さ。それを掻き消すように手を向けて叫ぶと、フレイヤと龍の間に土の壁が出現する。


「小癪な真似をっ!」


(やっぱり効果あるな。目を向けて、そこにある奴のイメージを捉えて破壊する。そもそものイメージは違うが……それでも危険はある。未知数な分、妨害し奴の集中力を妨げよう。うん、我ながら最高だぜ)


 本来なら、この技を使うべきなのは俺ではなくて、俺に成り代わっているフレイヤでなければならない。けれども、流石にそこまでは模倣が出来なかった。お互いに。

 それでも希望はあった。俺達は一回も、この精霊術をこの組織に来てから使っていない。つまり、知られていない。見られてもいない。


『これから先、いざということがあれば、精霊術をお使い下さい。それに呼応し、同胞らが応えることでしょう。いざという時以外、決して使いませぬように。さあ、お逃げ下さい! 魔の手はすぐそこまで迫っています!』


 最初で最後の約束。双子で共有した最初の秘密。燃え盛る森の中で、姿なき声と涙ながらに別れた。

 久しぶりに使っても、体は覚えているもの。知っているのは、俺達だけ。それを信じ、この日に備えた。


「助けられたが、感謝はしねぇ! でも、今からお前は俺に感謝することになる!」


 意気揚々とそう宣言すると、何事もなかったかのように歌い、舞い始めるのだった。

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