残る無能
―フレイ アジト 夜―
不幸探索を終えて、俺達はようやくアジトへと戻ってきた。好きなだけ振り回した、例の奴は椅子に座って休息を取っている。この状況で、フレイヤと言葉を交わすことは難しい。
けれども、俺達に言葉は必要ない。最近、いかにこっそりとコミュニケーションを取るかについて考え続けた結果、とある能力を身につけた。
(フレイヤ、分かったよな)
目配せと表情と雰囲気で、俺達はコミュニケーションを取るというもの。言葉とは違い、的確に伝わる訳ではないが、抽象的には理解出来る。
(分かったわ。舐めないで)
苛立ちのこもった表情で、フレイヤは頷く。
(あいつは、やっぱり目は見えてねぇ。ただ感覚的に捉えてる。俺達が入れ替わっても、気付いてる様子はなかった)
(つまり、いけるってことね)
一週間程度、俺とフレイヤは入れ替わっていた。お互いの仕草、癖などを真似しながら。普段だったら間違えてもやらない。大嫌いな相手になり切るなんて、精神をすり減らすくらいの苦痛だった。
それでも何とかやってこれたのは、今日この瞬間の為だ。あの龍を実力で叩きのめして、黙らせる。その為の共闘だ。これが終わり、ボスにも許して貰えたら――すぐに切り捨てるつもりだ。もう必要ない。仲良しごっこはおしまいだ。
(いつやるの? もうやるの?)
(いや、ガイアが邪魔だ。まず、あいつをどうにかしねぇと……)
俺は、部屋の隅で体操座りをしている不気味なガイアに視線を向ける。あいつ自身が何かしようとしなくても、龍がその力を利用する可能性はある。実際、一回それで痛い目を見た訳だから、危険は排除しておく必要がある。
(了解、やってあげる。うちの方が、得意だし)
フレイヤは得意げに笑うと、優雅にガイアの下へと歩み寄る。
(うぜぇ……マジでうぜぇ……頑張れ、俺。これを乗り越えれば、こんな馬鹿とはおさらばだ)
思わず浴びせてしまいそうになる本音をぐっと堪えて、その二人の様子を見つめる。
(っと、危なかった。今の俺らは、お互いに対して敏感だ。ちょっとした表情で、本音がバレちまう所だった。フレイヤが、俺を見てなくて良かったぜ)
「ガイア、ちょっといいか?」
「え、えっと……何、かな」
ガイアは見上げて、困惑した表情を浮かべる。
「腹減ったから、飯作ってくれよ。ほら、今日も今日とて歩き回ったろ? さっき飯は食ったけど、小腹が空いてよぉ~。軽い奴でいいんだって。俺ら、キッチン立つなって言われてるし。頼むぜ」
「で、でも……」
「やれって」
大して会話はしていないのに、もう面倒になったのかフレイヤは威圧的に問いかける。それは、ガイアには効果的であったようだ。
「わ、分かった! 大したものは作れないけど、作ってくる! だから、お願い……そんな怖い顔であたしを見ないでっ!」
飛ぶように立ち上がり、ガイアは素早く部屋を出て行った。
(ったく、俺はそこまで短気じゃねぇっての。まだまだだなぁ、ったく。ま、結果的に上手く行ったから許してやるが)
だが、その騒がしさに龍が不審に思ったのか、反応を示す。
「……何故、貴様らのような無能がここに残る?」
(もう始まりか。不意を狙えれば、一番良かったが……しょうがねぇよなぁ)
(ちゃんと合わせなさいよね、馬鹿兄貴)
(そっくりそのまま返すぜ、馬鹿妹が)
そして、俺らは息を合わせ、椅子に座る龍へと飛びかかった。




