それが恋?
―ガイア 街 昼―
あたしのどうしようもない話を、アマータは優しく聞いてくれた。だから、無理なく自然に話せた。そして、そのたくましい腕であたしを抱き締めた。
「……え? 駄目だよ、あたしに触れたらおかしくなっちゃうよ」
あたしに触れると、ほとんどの人が無気力になる。それが武器であると、ボスは言った。でも、その力の加減は自分自身ではどうにも出来ない。四方八方に向けてしまう。普段の生活から、それを防ぐ為に人を避ける生活。
「離さないわ」
「そんなに優しくしないでよ……もうっ!」
これ以上の迷惑なんてかけたくない。だから、アマータから離れようとした。ところが、あまりにも強い力であった為に出来なかった。その抵抗の最中、あたしは決定的な違いに気が付いた。
「というか、あれ? なんで? なんで、あたしもアマータも普通なの? こんなこと、今までボスだけだった……」
アマータは特別変わった様子もなく、力強くあたしを抱き締めている。あたしも、強い母性に飲み込まれていない。こんなこと、ボス以外で初めてだ。
「あぁ、そうだったわね……知らないのよね」
「どういうこと? アマータは知ってるの?」
「貴方の力は、その人にとって母と呼べる人がいるかどうかで発動するのよ。つまり、私やボスにはいないの。それだけのこと。だから、気にせずに抱き着いてくれていいのよ」
(母と呼べる人……ボスにもアマータにもいない?)
気になるけれど、聞けない。複雑な話題は、対処し切れなくなってしまうから。
「まったく、あの人も説明不足よねぇ。まぁ、そういう言葉足らずなところも愛おしいんだけど」
くすっと小さく笑う。その時、アマータの顔に女性の色が見えた。いや、女性というより乙女という言葉がよく似合った。この場にいる誰よりも、輝いていた。
(あの人って、ボスのことだよね。思い出しただけなのに、すっごく嬉しそう。ボスのこと、大好きなんだなぁ。あぁ、もしかして普段、女性っぽく振舞っているのはボスのことを意識してたからなのかな。それって恋? この表情……恋してるってことなのかな。でも、ボスはアマータの為に特別な仕草なんてしてなかったけどなぁ。分からないな、難しいや。そもそも恋がよく分からないわ。あたし、恋なんてしたこともないし、そこまで誰かと関わったことないし)
「こんな所で抱き合うなんて迷惑ねぇ」
「通行の邪魔だよな」
「見苦しい。意味が分からん」
そんな最中、周囲の囁きが耳に入った。陰口なのかもしれないが、それが本人の耳に入ったなら悪口だ。事実かもしれないけれど、もう少し配慮して欲しい。
(邪魔……見苦しい? 迷惑? あぁ、酷いよ……せめて聞こえないように言ってよ)
温まりかけていた心が、また凍り付いていく。すると、アマータがあたしを持って立ち上がる。あまりに軽々と。
「ごめんなさいね、皆さん。ちょっと端に行きましょうか」
悪口を受けとめて、素直に謝るアマータ。それに周囲は、気まずそうに反応して足早に去っていく。
「お、重くないの?」
「重くなんかないわよ。軽いわ。ちゃんと食べてる?」
「お腹が空いたら……」
アマータの肩の上に乗せられ雑談をしながら、あたしは端にはけた。




