お父さんデー
―ガイア 街 昼―
(あたし、こんな所で何しているんだろう)
監視者としての務めを果たさなければならない。それが分かっているのに、あたしの体はその場に座り込んで動かない。もう、三人の姿はどこにも見えない。
(こんなことで、立ち止まってるから駄目女なんだわ。あたしなんかがいなくても、誰も呼び戻しに来ないし。やっぱりいてもいなくても一緒なんだわ。あたしに役目を果たす意味なんてあるの? こんな空っぽのあたしなんて……あたしなんて……)
「――どうしたの? こんな所でうずくまって。他の皆はどこにいるの?」
前方から安心感を与えてくれる優しい声がして、顔を上げる。
「アマー……タ?」
しかし、そこにあった姿は普段のアマータとは真逆であった。ラフで男っぽい格好に身を包み、トレードマークのお団子をほどき、一つ結びをしていた。しばらく顔を合せなかった約一か月間に何があったというのか、と思うくらいの変化であった。
「えぇ、アマータよ? あぁ、この格好が見慣れないからかしら」
アマータは、少し照れ臭そうに髪をいじる。見慣れない所ではない、初めて見た。
「だって、アマータはいつだってお団子頭でスーツを着てたし……いつも女の子みたいだったし……初めて見たから……」
「今日は、お父さんデーなのよ。今日はね」
「お父さんデー?」
「えぇ、お母さんデーと交互にあるの。まぁ、ちょっと見た目を変えるだけなんだけどね。今日は、たまたまお父さんデーだったの。まぁ、気分チェンジの普段と変わらない日常よ」
誇らしげに、アマータは胸を張る。よく分からないけれど、母の日や父の日とは違い、完全オリジナルのものらしい。多分、ボスから面倒見るように言われたあの家族と関わる中で、思いついた特別な日なのだろうと思う。
「そのお父さんデーに、こんな所で何をしてるの……忙しいんなら放っておいて」
「今日は、家族でおでかけをしに来てたのよ。そしたら、道端でうずくまってる子がいるから心配に思って来てみたら……貴方って子は。放っておくはずがないでしょう。何かあったんでしょう? 言ってごらんなさいよ」
(家族でおでかけって……もうすっかり馴染んでるのね)
視線を逸らして見てみると、遠くの方にその家族がいた。女の子が女性の座る車いすを押して、赤ちゃんを背負っている。その隣には、男の子もいてこちらに視線を向けていた。
「……アマータは、本当に優しいわね。ちゃんとボスから言われたことを守って、役割を果たそうとしてる。あたしなんかとは違う。あたしなんかと関わってたら、空っぽになっちゃうわ。もう、いいでしょ……家族も待ってるわ」
「空っぽ? それが、貴方がここでこうしている理由? 誰かに言われたの? あの双子ちゃん? それとも、あの龍? 親しき仲にも礼儀ありよ。このアマータがしっかりお説教してあげるから、言ってみなさい。あの子達には、ちゃんと言ってあるから大丈夫よ。さぁ、教えて?」
心痛な面持ちで、あたしを見つめる。その目力だけで、抱き締められているような気持ちに陥った。力強いけれど、どこか優しい。だから、思わず漏らしてしまう。心の奥底にある悲しみを。受けとめて貰えるような、そんな気がして。




