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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十七章 亡失
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空っぽ

―ガイア 街 朝―

 意外と活動的な彼の外出が当たり前になってきた頃、双子達が妙な行動を取り始めた。


(まただわ……また入れ替わってる)


 何があったのか、全く分からない。あんなにもいがみ合った二人が、それぞれの真似をするなんて。フレイが、フレイヤに。フレイヤが、フレイに。最初は訳が分からなかった。気付けたのは、偶然。二人が着替えをする所を目撃してしまった為だ。


(何が目的? 何がしたいの? おふざけ、遊び? あぁ、聞きたい。聞きたいけど……聞く勇気がないわ。それに、仲良くしてるならそっちのがいいし……はぁ……)


 しっかりと口調まで変えて、何も知らなければ本当に分からない。元々、二人の違いなんて口調と服装くらいのものだったから。


「毎度毎度、何故貴様らはついてくる? ガイアがいればいいと言っているだろう。何度言っても理解出来ぬとは」


 このやり取りも何度目か。彼は、気付いている様子は見られない。伝えた方がいいのかもしれないと思うが、彼に自分から話しかける勇気がない。


(気付いてないのかな……あえて、無視してるのかな。変に言って、機嫌を損ねたらどうなるか分からないし……はぁ)


「うっさいわねー、それが仕事なの。大体、ガイアだけじゃ不安だもの」

「俺みたいな天才がいねぇとなぁ!」

「役立たずの上にまとわりつく馬鹿が二人とは、何とも迷惑な。厄介な者に任命してくれたものだ。不快感で、集中が途切れる」

「文句ばっかでうっぜぇなぁ!」


 入れ替わってはいるけれども、相変わらずのやり取り。違和感はない。もはや、安心感すら覚えるようになった。これを見ると、あたし達は幸せなのだと実感出来る。というのも、彼の行く先々で吐き気を催す光景を見ることになるからだ。あたしは無力で、本当に何も出来ない。ただ傍観し、いつか来る世界の終わりで救済が訪れることを祈り続ける。


(特別にどうすることも出来ないけど、この仕事も辛いなぁ。監視者って言うよりも、傍観者だわ。あぁ、強かったらなぁ。力も心も……)


「くだらんな。これ以上話していた所で、時間の無駄だ。実りもないし、何も学べぬ。まぁ、貴様らのような罪人風情に期待するだけ無駄であるとは分かっているのだが。あの白髪の男のように期待したのが愚かであったということか。さて、ようやく見えてきた。妨害があるものだから手間取ったが……あそこからも強い穢れが感じられる。まったく、余計な体力を消費した。空っぽな者との関わりは非常に疲れる」


(空っぽ……)


 わざわざ言わなくてもいいようなことを、双子達に浴びせ、彼は目的の場所へと向かう。空っぽという言葉で、地味にあたしを傷付けて。


(実は、あたしにも言ってるんだわ。こっちも見向きもしないで……図星だから余計に辛いわ)


 あたしは、ずっと過去の不幸が心の支えだった。けれど、組織に来たら不幸にまみれた人に溢れていた。それだけでもショックだったけど組織に入れたなら、まだ最低限が保証されているだけマシだと感じ始めていた。こんなにも救われない人達がいる。たった一つの支えが、この仕事によって失われていく。あたしは、空っぽで本当に何もないゴミなのだと自覚せざるを得なくなっていた。

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