誰のもの
―破壊の龍 街 夕方―
「あぁ、穢らわしい。何とも穢らわしく、嘆かわしいことか。しかし、この醜さが吾輩に力を与える。そのように生まれてしまったが故に……」
創造主によって与えられた役割を果たすことの重要さ、自身が眠りに落ちている間に消えた数十体兄弟達のことを、この醜悪な世界で見て思う。
『おはよう、生まれたばかりの君達には役割がある。それは、試作品……いや、牢獄の監守さ。お目覚め早々悪いけれど、でもそう設計してあるから理解は出来るはずだ。兄弟が七二体か、仲良くするんだよ。そして、破壊と創世を司る龍である君が長子だよ』
その言葉をかけられた直後に、吾輩は眠りへと落ちた。あの時は、まだ世界は美しかった。だから、眠たくてたまらなかったのだ。
しかし、次に目覚めた時に世界は様変わりしていた。罪人達の欲望が、世界を穢していた。本来ならば、今すぐにでも役割を果たさねばならなかった。あれほどまでにいた兄弟の数も、人の子の手の指の本数に収まりきるくらいの数にまで減っていた。存在している者達も、ほとんどが力をまともには発動出来ない状態にまで成り下がっていた。
それは、吾輩も同じ。眠っている間に、吾輩の体は弄ばれていたのだ。結果、中途半端なこの様だ。力を極力使わぬように、自らの足で穢れを探知しなければならなかった。
(もはや、この世界は壊さねばならぬ。そして、もう一度初めから。こんな世界に堕とされるような罪人に、自由を与えるから駄目なのだ。しかし、それが創造主様のご意思。分からぬ者は、永遠にこの世界を彷徨い続けるのだろうな……)
無知とは愚かな者。罪とは惨めなもの。慈悲も愚かさと穢れの前には、無意味と散る。吾輩の務めは、その全てを消し去り、ゼロから始めることだ。
吾輩の生まれた意味は、たったそれだけのこと。それが終わればまた眠りにつく。もう永遠に目覚めないことを祈りながら。それまでの辛抱だ、この苦行は。
***
―? ?―
混濁する意識の中、目を覚ます。ここがどこで何だったか、自分が何者であったかすらぼやけてよく分からない。力も入らないし、眠たくて仕方がない。
この感情が、誰のものなのか分からない。悲しさ、怒り、虚しさ、使命感、沢山あるけれど誰の思いだろう。
「情けないったら、ありゃしないわね。そんな有り様なら、ボスの台本通りだわ。ここで、私様と一緒に消滅するのもいいんじゃない? た・つ・み」
目の前に、人が落ちるように現れてそう言った。その瞬間、雷に打たれた感覚を覚えた。
「僕の名前……あぁ、そうだ。そうだった。僕は……巽だ。え? 君は……僕が喰らって……」
そこにいたのは、獣となってしまった時に喰らったアルモニアさんその人だった。彼女は軽蔑するような視線で、僕を見ていた。




