穢れ過ぎた世界
―ガイア 街 昼―
(どうしよう、どうしよう……あたし一人だけなんて! もしも、何かあったらどうしよう。あたし一人なんて、弱過ぎて何も出来ないわ。どうか、何も起こりませんように!)
怖くて怖くてたまらない。あたしみたいな、ただの凡人にはこんな凄い人の相手は務まらない。なんで、あたしを監視役に選んだのだろう。急にこんな大仕事を与えられても困ってしまう。まずは、アジトの掃除からやらせて欲しかった。
(どこまで歩くの? どこまでも歩き続けられたらどうしよう。このまま国を越して行くなんてことないわよね? もうそろそろ足が痛いわ。穢れってどこにあるの? 穢れって目に見えるものなの? そもそも、この人は目が見えているの? いや、あたしが縫い付けてあげた仮面と目の部分に詰め込んだ物があるし……感覚でやってるの? とんでもないじゃない! あぁ、もう世界が早く終わってくれればいいのに)
「ねぇ、あの人達何者?」
「ちょっとヤバい人達なんじゃない?」
彼の奇抜な格好のせいで、あたしまで一括りにされてしまう。冷たい視線と心に突き刺さる言葉。死にたくなる。
(なんで、あたしまでそんな扱いをされないといけないの? 酷い酷いわ。何も知らないくせに。あたしは、普通の格好をしているじゃない!)
腹が立つけれど、それを言う度胸はない。死にたくなって終わりだ。弱い自分が情けない。でも、今更自分を変えることなんて出来ない。
「ひゃぁ!?」
そんなことを思い悩みながら歩いていると、急に立ち止まった彼にぶつかってしまった。
「ご、ごめ――」
「見つけたぞ、醜い穢れだ。この街で感じる最大の穢れだ。これが、吾輩の糧となる。見てみよ、あれを」
しかし、それを気にする様子もなく彼は一方向を指差す。ほっと胸を撫で下ろし、そちらに目を向けた。そこにあったのは、何の変哲もないただの家。特別汚れているなんてことはない。
「え、えっと……何があるの? 家しかないけど……」
「窓から覗いてみるといい」
「は、はぁ……」
覗きなんて最悪だ。龍がそんなことを勧めてくるなんてと困惑しながらも、ここで拒否したらヴィンスみたいにされてしまうかもしれない。あんな終わり方は嫌だ。あたしは、苦しみながら死にたくない。安らかな終わりを迎えたい。だから、恐る恐る近付いてこっそり窓から中の様子を見てみた。
すると、そこには衝撃的な光景があった。大人達が豪華な食事を楽しむ一方、食器洗いを幼い少女が行っていた。しかも、服装も大人と子供でかなりの差があった。大人の服は高級感があるが、子供の方はかなりボロボロだった。
しばらく見ていたが、子供が休む様子はなかった。食器洗いから洗濯、掃除や大人達の身支度を整えたりと休みなく動き続けていた。まるで、召使いのように。
「酷い……」
言えたのは、たったそれだけ。それに反応して、彼は言う。
「あの子供の抱く感情が、吾輩を呼んだ。愛情以上に憎悪を感じる。加えて、あの大人達の自分本位の考え方。なんとも穢らわしい。だが、吾輩の力を高める為にも必要だ。どうせ、吾輩の力が完全となれば世界は滅びる。そうすれば、あの子供も救われる。何とも素晴らしい。これが吾輩の偉大さだ。よく目に焼き付けておくことだ」
(本当ね、世界は穢れ過ぎてる。一刻も早く次の段階へと進ませないと……)




