姿を重ねて
―ヴィンス カフェ 昼―
すっかり静かになったカフェで、私は紅茶を楽しむ。これから数時間後には、ボスとの鍛錬が待っている。私に見合う戦術を教えてくれるという。
「あの二人に随分と肩入れされているようですね、ヴィンス様」
一人で胸を躍らせていると、配下でありカフェの店員である彼が前方から現れて話しかけてきた。恐らく、私が一人になる機会をずっと伺っていたのだろう。
まだたっぷり紅茶の入ったティーカップを、机に置いて私は答えた。
「どうして、そのように思うんですか?」
「このカフェに組織に関する方を招かれたのは、ボス以来のことでしたから」
「あぁ、そういえば……そうでしたか」
このカフェに出入りしているのは、基本的に私と私の部隊だけ。ボスが来たのも、もう何年も前のことだ。
「いつものきまぐれとは違うように感じます」
「う~ん、そうでしょうか?」
「えぇ。それに、普段外で他の幹部の方々と関わる時とも目の色が違うようにも見えました」
「よく見てますねぇ」
「これでも、ヴィンス様の部隊に所属している身ですので。洞察力は鍛えられている方かと」
私の部隊は暗殺を主としている。実行するのは、私。その当日の偵察や事前の準備、後片付けは部隊の皆に任せている。
(怖いですねぇ。まぁ、喜ばしいことなのかもしれませんが。ここだと、ついうっかり気を抜いてしまうんですよね。落ち着くから)
「隠せないですねぇ。まぁ、隠すつもりもあまりないですが。私達の仲です。ここは、素直に言いましょう。ここに座って下さい」
先ほどまで、双子達が腰かけていた場所を指差す。すると、実に俊敏な動きで彼は席に着いた。
「……そんなに気になりますか? 私が、あの双子を贔屓にする理由が」
「興味があるだけです。ヴィンス様も同じではありませんか? 仕える方の思想を覗いてみたいと思うことは」
私より、彼の方が随分と年上だ。まだ子供である私を、そのように慕ってくれているとは。気分が良かった。
「ふふ、なるほど。そこまで、思って頂けるとは光栄です。では、その思いには答えましょう」
そして、私はティーカップに目を落とす。当然ながら、そこには私の顔が映っている。反射した自身の顔を見る度に思い出す。共に生まれ、先に逝った妹のことを。
「私には、双子の妹がいた……それはご存じですね」
「えぇ」
「あの兄妹を見ていると、ふと自分達のことを思い出してしまうんです。重ねてしまうんです。その関係や雰囲気は全然違うんですけど。それにこの組織にいる時点で、酷い目に遭っているのは間違いありません。だから、つい同情して、贔屓してしまうんでしょうね。その境遇も、経験も何となく分かってしまうから――」
彼に語っている最中、私の脳裏には妹との思い出が鮮明に蘇っていった。




