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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十六章 穢れを探して
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二人で一人

―フレイ カフェ 昼―

 ふんわりとした真っ白なクリームをセンターに、真っ赤な苺が取り囲む。少し口に入れるだけでも、瞬く間に甘さが伝わる。パンケーキというものを初めて食べたが、想像以上の美味しさだった。


「ふふふ、やはり気に入ってくれましたね。貴方達にしては、珍しく無駄口を叩かずに食べてますし」

「無駄口って何よ。率直な意見って言いなさいよ」

「ま、悪くはねぇな。って、お前もう食ったのかよ!」


 ヴィンスの皿に目をやると、もう綺麗さっぱり残っていなかった。俺やフレイヤの皿には、まだ半分以上残っているというのに。


「エネルギーを消化するとお腹が空くんですよ。それと、甘い物が好きなので。私のことは、気にせずゆっくり食べて下さいね」

「へ~言われなくても、全然気にしちゃいねぇよ」


 たまたま顔を上げたら、皿が目に入っただけだ。そして、話しかけてきたから、適当に応じただけだ。勘違いしないで欲しい。


「寂しいこと言わないで下さいよ、仲間でしょ? あ、家族か。家族といえば、ずっと気になっていたことがあるんですが……貴方達って、どうしてそんなに喧嘩をするんですか? 家族なのに、仲が悪過ぎませんか?」


 頬杖をついて、興味深そうに前のめりになって聞いてくるヴィンス。愚問にもほどがあった。


「そりゃ、こいつが馬鹿だからだろ。すぐに突っかかってくるし、喧嘩を売ってくる。餓鬼の相手をするのも楽じゃねぇよ」

「はぁ!? そっくりそのまま返してやるわよ。馬鹿な上に、喧嘩を売ってくるのはあんたの方でしょ。あ~あ、もっとましな奴が兄貴だったら良かったんだけどなぁ。こんなのの妹なんて、生き恥だわ」

「あぁ、んだと!? もう一回言ってみ――」

「どうどう、アハハ。落ち着いて」


 とっつかみ合いになりそうになった所を、ヴィンスが制する。


「やっぱり、君達は似た者同士。同族嫌悪って奴ですね。そっくり過ぎて、嫌になるんですよ」

「「はぁ!?」」

「やっぱりってどういう意味だよ」

「そうよ、分かりきってたみたいな言い方、気に食わないわ」

「だって、私から見て……貴方達の違いなんてほどんどありませんから。声も姿も匂いも、雰囲気も考えた方も性格も、その全てが全く同じ。目を瞑り、気配だけに頼ればどちらがどっちかなんて本当に分かりません」


 ヴィンスは目を瞑り、両手を広げて首を傾げる。その姿は、あまりにもわざとらしく映った。


「私にも双子の妹がいましたが、そこまでの一致はありませんでした。まぁ、私と妹はかけ離れていましたし……貴方達が羨ましくてありません。だからこそ、思うのです。勿体ないと。それは、貴方達才能。一人では決して役には立ちませんが、二人なら……大きな武器になるでしょうね。そうすれば、きっと昇格も夢じゃないでしょうねぇ」

「「え……?」」


 今まで夢にも思わなかった、フレイヤと俺が協力して成り上がるなど。しかし、ヴィンスの発言には今までの経験からくる説得力があった。ボスに何度も一人で決闘することを拒まれたこと、フレイヤと何度訴えてもコンビを組まされたこと。


(じゃあ、あの時のボスが言った意味は……)


『はぁ……お前もしつこいねぇ。兄妹揃ってよく似てる。たった今合計して、666回に達した。一人で、一人で、一人でなら……お前達は何も成長しなかった。何も結び付けられなかった。何も学べなかった。あれだけの期間がありながら』


 隠し切れぬ失意に満ちたその言葉の真意に、俺はようやく気付いた。

 俺達は――二人で一人であるべきなのだと。

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