二人で一人
―フレイ カフェ 昼―
ふんわりとした真っ白なクリームをセンターに、真っ赤な苺が取り囲む。少し口に入れるだけでも、瞬く間に甘さが伝わる。パンケーキというものを初めて食べたが、想像以上の美味しさだった。
「ふふふ、やはり気に入ってくれましたね。貴方達にしては、珍しく無駄口を叩かずに食べてますし」
「無駄口って何よ。率直な意見って言いなさいよ」
「ま、悪くはねぇな。って、お前もう食ったのかよ!」
ヴィンスの皿に目をやると、もう綺麗さっぱり残っていなかった。俺やフレイヤの皿には、まだ半分以上残っているというのに。
「エネルギーを消化するとお腹が空くんですよ。それと、甘い物が好きなので。私のことは、気にせずゆっくり食べて下さいね」
「へ~言われなくても、全然気にしちゃいねぇよ」
たまたま顔を上げたら、皿が目に入っただけだ。そして、話しかけてきたから、適当に応じただけだ。勘違いしないで欲しい。
「寂しいこと言わないで下さいよ、仲間でしょ? あ、家族か。家族といえば、ずっと気になっていたことがあるんですが……貴方達って、どうしてそんなに喧嘩をするんですか? 家族なのに、仲が悪過ぎませんか?」
頬杖をついて、興味深そうに前のめりになって聞いてくるヴィンス。愚問にもほどがあった。
「そりゃ、こいつが馬鹿だからだろ。すぐに突っかかってくるし、喧嘩を売ってくる。餓鬼の相手をするのも楽じゃねぇよ」
「はぁ!? そっくりそのまま返してやるわよ。馬鹿な上に、喧嘩を売ってくるのはあんたの方でしょ。あ~あ、もっとましな奴が兄貴だったら良かったんだけどなぁ。こんなのの妹なんて、生き恥だわ」
「あぁ、んだと!? もう一回言ってみ――」
「どうどう、アハハ。落ち着いて」
とっつかみ合いになりそうになった所を、ヴィンスが制する。
「やっぱり、君達は似た者同士。同族嫌悪って奴ですね。そっくり過ぎて、嫌になるんですよ」
「「はぁ!?」」
「やっぱりってどういう意味だよ」
「そうよ、分かりきってたみたいな言い方、気に食わないわ」
「だって、私から見て……貴方達の違いなんてほどんどありませんから。声も姿も匂いも、雰囲気も考えた方も性格も、その全てが全く同じ。目を瞑り、気配だけに頼ればどちらがどっちかなんて本当に分かりません」
ヴィンスは目を瞑り、両手を広げて首を傾げる。その姿は、あまりにもわざとらしく映った。
「私にも双子の妹がいましたが、そこまでの一致はありませんでした。まぁ、私と妹はかけ離れていましたし……貴方達が羨ましくてありません。だからこそ、思うのです。勿体ないと。それは、貴方達才能。一人では決して役には立ちませんが、二人なら……大きな武器になるでしょうね。そうすれば、きっと昇格も夢じゃないでしょうねぇ」
「「え……?」」
今まで夢にも思わなかった、フレイヤと俺が協力して成り上がるなど。しかし、ヴィンスの発言には今までの経験からくる説得力があった。ボスに何度も一人で決闘することを拒まれたこと、フレイヤと何度訴えてもコンビを組まされたこと。
(じゃあ、あの時のボスが言った意味は……)
『はぁ……お前もしつこいねぇ。兄妹揃ってよく似てる。たった今合計して、666回に達した。一人で、一人で、一人でなら……お前達は何も成長しなかった。何も結び付けられなかった。何も学べなかった。あれだけの期間がありながら』
隠し切れぬ失意に満ちたその言葉の真意に、俺はようやく気付いた。
俺達は――二人で一人であるべきなのだと。




