愛情深い
―フレイ 街 昼―
「監視? ボスに? 信用されてないから? ずっと……尽くしてんのに? ボスが、うちらを拾ったのに? なんで?」
フレイヤは、ミニチュアサイズのエトワールを見ながらそのショックを隠し切れないでいた。
「壊しても壊しても、あれはすぐに復活します。なので、受け入れた方がいいですよ。ここで見聞きしたことを報告するかしないかは、エトワールの判断。まぁ、されたとしても困るようなことじゃないですけど。私達程度、ボスにとっては些細な問題ですから。それより、ちょっと場所変えません? お互い暇でしょ? カフェにでも」
「へ、平気なのか? 体の中の臓器か何かが一部壊されたって……」
「もう大分、平気です。私、結構凄いんで」
そう言って、ヴィンスは口を拭う。確かに、先ほどまでとは違って随分とぴんぴんとしている様子だが……。
「でも、お前は俺らと一緒で拾われて……それに、お前は龍の力なんて持ってねぇだろ」
「えぇ、それは今もそうですよ。自己判断で、ただ禁忌の魔術は施してみたんです。飛躍的に細胞の活性化を促す魔術を。細胞の老化を早めてしまうので、一概にいいとは言えないのですが。元々傷の治りは早い方なんですけどねぇ。ちょっとこの怪我は……マズイかもしれませんねぇ」
体の内部を破壊されておいて、怪我の一言で済ますのはどうかしていると思う。本当にイカれてる。
(魔術の類は、勉強してねぇから分かんねぇよ。でも、やっぱりこいつはおかしいだろ)
「ねぇ、そんなことより、なんであんたらは冷静に監視されてるって現実を受けとめられんのよ。信用されてないって。こんなにもうちらは尽くしてきてるのに!」
すると、フレイヤが怒りを露わに、俺らにぶつかってきた。
「だって、知ってたし……昨日くらいだけどさ。そりゃ、今もショックだけど、それで俺らがどうこう出来る訳でもねぇし。ボスには、どうやったって敵いっこねぇし」
ボスの足元にも及ばない。現に、俺一人で五番目のエトワールに手も足も出なかったのだから。俺より弱い妹が加わった所で、何も変えられないだろう。
「それは……そう、だけど! やっぱり――」
「駄目ですよ、それ以上を言っては。それを聞いたら、私も手を下さなければならなくなります」
優しく微笑みながら、そっとフレイヤの唇に人差し指を置いた。
「信用されなくても、必要とされなくても、駒として扱われても……私は、ボスを信用して必要として大切に扱う。一方的な思いでも構いません。私が幸せならそれでいい。フフ、忠誠を誓うということは、こういうことなんだと思います。それで、どうします? カフェ行きません? 先輩として、色々聞いてあげますよ。今後のこととか、ね。ボスとの約束の時間までですけど。こう見えて、私結構愛情深いんです」
そして、突然ヴィンスは身をかがめて俺達を抱き寄せて囁いた。
「そこでなら、彼の目も耳も欺けますよ」




