四番目の男
―フレイ 街 昼―
どういう人生を送ったら、こんなことになってしまうのか。気持ち悪くて仕方がない。褒めているのか貶しているのか分からない言葉を投げかけた後、匂いを嗅ぐなんて。本当に意味が分からない。
「ファンとは……? 前後の言葉の意味から考えるに……侮辱を受けたのか? しかし、美しいという単語もあったな。おい、ガイア説明しろ」
「ひぃっ!? なんで、あたしが……!? あたしじゃなくて、他の人に聞けばいくらでも教えてくれる――」
「信者ですよ! 要するに! しかし、そんな思いを抱いているからこそ心配なことがあります。そのお姿では、あまりに目立ち過ぎてしまう。ただ遠くから貴方様を見て、畏れるだけなら何の問題もありません。ですが、この世界は貴方様を目覚めさせるほどの美し……穢れに満ちています。悪意を抱く者だっているでしょう。その姿は、特に……いえ、もしかしたら人々の記憶にはほとんど残っていないかもしれませんが……心配でなりません! お望みのもの、この私がいくらでも持ち帰ります! どのような穢れをお望みですか? 必ずや満足させて見せましょう」
ヴィンスは、にこやかに微笑む。その提案は、俺にとっては素晴らしいものだった。この面で勝手にぷらぷらと出歩かれるよりかは、ずっといい。穢れを持ち帰る方法は不明だが、何となくこの男ならやれる気がする。
(こういう傲慢野郎は、丸投げ大好きだろ。へへ、ヴィンスがやってくれんならこっちは楽でいいぜ。きっと、すぐに受け入れるだろ)
「吾輩を馬鹿にしているのか、貴様は」
その怒りが滲む声が聞こえたかと思えば、次の瞬間――ヴィンスが血を吐いて倒れていた。一秒にも満たない間に、龍が何かをした。
そんな奴の様子を見て、さらに街の人間達が騒ぎ始める。これは、マジでヤバイ。一刻も早くここから立ち去って、情報コントロールを依頼しなければいけないレベルだ。
「吾輩は、一人では何も出来ないように見えるのか? 貴様のような汚い輩に心配されるほど、落ちぶれてはいない。貴様らの組織の計画の要は、吾輩だろう。吾輩がいなければ、何も達成されない。口の利き方に気を付けることだ。次は、全身を破壊するぞ」
(嘘だろ? こいつ、四番目だろ? そんな奴が、何も反応も出来ずに……無様にあっさりとやられちまうなんて)
「ぐふっ、フフ……血のいい匂いがしますね。私は、どこを破壊されてしまったのでしょう。臓器の一部? あぁ、見えなかった。全然見えなかった。どうしましょう。この後、ボスが日本刀を用いた剣技を教えて下さるというのに……ぐぅ……! ハハ、ハハ!」
不敵な笑みを浮かべながら、血を吐き、言葉を漏らすヴィンス。それを嘲笑うように、龍は言う。
「所詮、この程度だ。あぁ、勿体ない。力は貴重だ。必要になる量が僅かに増えてしまった。急がなければ。付きまとうのは、ガイアだけでいい。そこの双子は後処理をしろ。どうにかするのが、貴様らの役割だろう。では行くぞ、ガイア」
吐き捨てるようにそう言うと、何事もなかったかのようにかのように歩き出す。
「え? あ、あたし? わ、分かった……い、行ってきます」
予期せぬ指名に困惑していたが、歯向かえばどうなるかは分からない。恐怖に震えながら、ガイアは後を付いて行った。




