行く手を遮る者
―フレイ 街 昼―
「なぁに、あの格好?」
「恥ずかしくないのかしら」
周囲からの痛い視線を浴びながら、俺達は後ろを歩く。監視者は、その姿を捉えられる範囲にあるならばどの位置にいたって構わない。けれども、この男は色々と危険過ぎる。だから、この屈辱に耐えながらも後ろにいた。
(この視線に気付いてねぇのか? いや、何とも思ってねぇのか? 見えてねぇのか? いや、見えてなくてもこの龍は分かってるはずだ)
先ほどの状態で、あえて隙を作って俺達を釣った。そして、直接手を下さずにガイアを使って、俺達を叩きのめした。そこにあったのは余裕だ。悔しいが、その強さを認めざるを得ない。
こんな隣でとぼとぼと歩くような女に、人間の体に居座らざるを得なくなった龍相手に、あっさりと敗北したのが現実だった。
(ムカつくけど、くそ……)
フレイヤも、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。この件に関しては、ことごとく気が合ってしまうみたいだ。
(つーか、こいつ……どこまで歩き続けるつもりだ? お得意の瞬間移動も使わねぇ、浮遊する訳でもねぇ。まるで、散歩するじじぃみたいだ。本当に穢れを探してんのか)
ただただ進んでいるようにしか見えない。かれこれ数時間歩き続けているが、周囲に顔を向けようともしない。道なりのまま、何も考えていないんじゃないかと思った。
「――お~い! お~い!」
歯痒い思いを抱えて付いて行っていると、前方から親しげに手を振るヴィンスが見えた。そして、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。そして、たまたまかわざとか、ただひたすらに真っ直ぐ進み続けていた龍の行く手を遮る。
「こんにちは! お散歩ですか? 変な奴らが歩いてるって噂を聞いて来てみれば、貴方達でしたか」
(ん? 今、奴らって言ったか?)
「一括りにしないで。不快だわ。うちらは、監視役なんだから。仕方なく近くを歩いていてあげているだけだから。突然喋り出して、勝手に出て行って、ずっとこんな調子でウザいんだけど」
「あぁ! もう、その段階にまで来られたのですね。貴方達が、お散歩させているだけなのかと思ってましたよぉ。こうやって、直接お話出来るなんて……夢のようです!」
ヴィンスは目を輝かせ、龍の手を握った。
「気安く触れるな、汚らわしい。吾輩を何だと思っている。吾輩の行く手を遮るな、邪魔者が」
容赦なく浴びせられる罵倒。しかし、ヴィンスはそれを幸せを噛みしめるような表情を浮かべて受けとめる。
「あぁ……申し訳ございません! あぁ、あぁ! その穢れや汚れを徹底して嫌いつつも、それを栄養とする貴方様の歪み! 私とは決して相容れない感性! その全てが美しい! 貴方様のお話を聞いた時から、ずっとファンだったんです!」
ヴィンスは、すぐに龍の手を離した。だが、今度は自身の手を組んで鼻に近付け、余韻に浸る様子で匂いを嗅いだ。心の奥底から気持ち悪い、そう思った。




