清々しいまでの傲慢さ
―フレイ アジト 朝―
ぷちんと、頭の中で何かが切れる音がした。
「んだと!? てめぇ!? 龍で一番強いからって調子乗りやがってよ!?」
「ずっと誰かから大事にされてきたから、馬鹿なんだわ!」
「「いっぺん、痛い目見せてやる!」」
勢いと感情のままに、それでも的確に俺の拳は人間の急所であるこめかみを捉えていた。そして、フレイヤはスネを狙っていた。
(はん! 龍の頂点だか何だか知らねぇが、見せかけと雰囲気だけでお得意のお力とやらを使う気配もねぇ!)
強大な力は感じるが、それを使おうとする気配を微塵も感じない。ただ平然とそこに突っ立っている。きっと、俺達が攻撃しようとしていることにすら気付いていないのだろう。
よく俺達は、子供だと馬鹿にされる。見た目と生きてきた年数だけで判断されるのは、ストレスが溜まる。その慢心は、俺達に隙を与えてくれる。それを食い物に、俺達はここまできた。
(こいつを軽くぶっ飛ばせば、きっと組織の連中も俺達を子供だからって馬鹿にすることもなくなるだろ。きっと!)
しかし、その期待を抱いた直後のことであった。体から力が抜けて、こめかみを突く前に崩れ落ちた。何が起こったのか、一瞬では理解出来なかった。
「駄目じゃない。私欲の為に危害を加えるなんて。お母さん、おふざけが過ぎる子は許せないわ」
ガイアが、龍を庇うように立ちはだかっていると理解したのは無力化されてからであった。
「な、んで……」
その状況に陥ったのは、フレイヤも同じのようだった。そんな俺達を嘲笑うように、龍は言った。
「その程度の動きで、吾輩を出し抜けるとでも思ったのか? 甘い」
「ガイアが、自分から動くはずがねぇ……一体どんな小細工を……」
ガイアは、少し後ろの方で震えているだけだったはずなのに。破壊と創造の龍には、そんな力もあるというのか。
「勢いと感情のままに動くからであろう、情けない。吾輩の動きしか見ておらぬとは。それでよくもまぁ、無礼なことを言えたものだ。先が思いやられる。しかし、貴様らの成長の為に教えておいてやろう。これから、吾輩に付きまとうようであるからな。吾輩は数歩下がり、女の手を引っ張った。たった、それだけのことだ。そこから先は、女が勝手にやったことだ。さて、子供のお遊びはもう飽きた。創造の為に、破壊し洗浄する力を取り戻さなくては。使命はすぐそこにあるというのに……力発動に向けて十分な力がないというのが、嘆かわしい話だ。集めに行くぞ。どうせ、外界は穢れに溢れているのだろうからな」
呆れ混じりに言いながら、龍は部屋の外に出ようと動いた。
「ま、待てよ……そんな格好で外に出たら……下手に目立つだろうが……」
もはや、その一方的な話に突っ込む余裕はなかった。
「それをどうにかするのが、貴様らの役割であろうが。その足りない頭で考えてみろ。愚か者共が」
清々しいくらいまでの傲慢さ。ここまでくると、もう苛立ちすら感じなくなっていた。そして、龍は外へと出ていく。その時、ようやくガイアの力の効力が消えた。
それによって自由になった俺達は何も言葉を交わすことなく、その後を追った。




