潔癖症と愚か者
―フレイ アジト 朝―
その衝撃のあまり、俺らは絶叫してしまった。
「なんで!? なんで喋るの!?」
「吾輩には、意思がある。置物ではない」
「いやいや、そうじゃなくってよ!? さっきまで全然喋る気配とかなかったじゃん?」
「何故、貴様らに確認せねばならぬ? どのタイミングで口を開こうが、吾輩の勝手であろう」
今まで無であったのが嘘のように、巽は喋り出す。いや、実際喋っているのは巽でなく中に宿る破壊と創世の龍なのだが。
「お、落ち着いて……ねぇ? こ、これで色々やりやすくなるかもしれな……あっ、ごめん。なんか勝手に色々言っちゃって……気にしないで。どうせ、あたしの言うことなんて大したことでも何でもないし……」
傍から恐る恐るといった様子で、ガイアは口を開いた。しかし、一気に向けられた視線に怯んだのかまたネガティブな方向へと走り出していった。
「……はぁ」
突然、巽は深いため息をついた。
「なんだよ」
「嘆かわしい。カラスの子は、非常に優秀かつ冷静であるという認識があった。しかし、長い眠りから目を覚まし、あの白髪のカラス以外の者を見るとどうだろう? 場を弁えることも立場も弁えることもせず、騒ぎ立てる。何ともまぁ嘆かわしいことか。吾輩を何だと思っている? 子供だからといって、許されるようなことではない。世が世なら、斬首ものだ。敬え、崇めよ」
語り出したかと思えば、老人の長々とした説教のようだった。初対面の奴に、ああだこうだと言われる筋合いはない。たとえ、龍であっても、組織にとって重要な鍵であっても。
「ウゼぇ……」
「うっざ」
そして、奇遇にもその思いはフレイヤと一致した。
「しかしまぁ、貴様らのお陰で吾輩はこの体を掌握した。特にそのフレイとかいう少年。貴様の発した歪な感情が、吾輩に力を与えた。何ともまぁ吾輩にとっては苦痛だが、そのように作られてしまったのだから耐えるしかあるまい。これが生きるということなのだろう」
「歪……? よく分かんねぇけど、俺のせいかよ!?」
「何やってんのよ、馬鹿兄貴。あんたのせいで、面倒臭いこと、この上ない状況が生まれちゃったじゃないのよ!」
「む……? 何故争う? 吾輩は感謝を伝えているのだぞ」
「「いや、全然嬉しくないからっ!」」
ついに、声がフレイヤと揃う。これもまた、全然嬉しくない。こんな馬鹿と気が合ったとか思われそうで嫌だった。
「嘆かわしい。かつて、吾輩の感謝の気持ちを受け取った者は、泣きながら喜んでいたというのに。これも、穢れの影響か。まぁ、その穢れが、どうしようもなくなったからこそ吾輩は目覚めたのだが」
「黙れよ、潔癖症」
「醜いものに嫌悪感を覚える……ただ、それだけのこと。その吾輩の感性が理解出来ぬということが、穢れの表れだ。愚か者」




