騒々しさ二倍
―フレイ アジト 朝―
「――ガイアから聞いたんだけど、マジでダサい~! それにひきかえ、うちは華やか~♪ あんた如きが、成り上がれるはずないじゃない。ねぇ、ガイア」
自慢げに、晩餐会で着ていたドレスを見せつける。
(いつまで着てるつもりなんだ、この馬鹿は)
「……どうして、そんなに自信があるのかしら。役職を与えられているだけで十分なのに……」
「うるせぇ!」
目が覚めると、無数にいたエトワールは消えて、ボスもいなくなっていた。代わりに、騒音が俺の腹の上で当然のように座っていた。お陰で、ぼんやりとしていた意識もすぐに晴れて、フレイヤをぶっ飛ばすことが出来た。
それが気に食わなかったのか、フレイヤは激しく煽ってきた。
「ガイアに、おねんねしてる間に治療して貰って良かったねぇ~。大怪我だったんでしょ~? 痛い痛いって、馬鹿みたい泣かなくて済んだね~」
「それは、ボスに言われたからで……あたしがやった治療なんて、もしかしたら大して効果ないかも」
ありとあらゆる暴行を加えられ、全身傷だらけだったのは間違いない。痛みという感覚も麻痺し始めてきている頃合いだった。それを思うと、今は随分とマシになった。
「いいのよ、そんなの別に。負けた馬鹿が悪いんだからさ」
「だって……卑怯なんだよ! 俺は一人なのに、あいつはぽんぽん分身出してきてよ。しかも、顔面で威圧してきて……」
「怖かったんだ~? ねぇ、そうなんでしょ~? あ~! 怖くて気絶しちゃったみたいな? ウフフフ、流石だわ!」
「うっせぇな! ちげぇわ! ただでさえ、こっちは寝起き早々胸糞わりぃんだよ。嫌なことを思い出した挙句、馬鹿が腹の上にいた。こんな最悪なことってねぇだろ!」
頭の中に浮かんできただけで、イライラが思い返される。
「有名な鍛冶屋を脅して作らせた剣も使えねぇし!? あぁああああ゛あ゛! もう、どいつもこいつも使えねぇなぁああ!?」
「騒々しい」
「あぁ!? 誰が騒々しいだぁ!?」
「はぁ!? うち、何にも言ってないし!」
「あぁ!?」
この部屋で、俺を馬鹿にするようなことを言う奴はフレイヤくらいしかいない。
(いや、でも今までも散々馬鹿にしてきて、急にそれを隠す理由がねぇよな)
ふと、冷静に考えた。聞こえてきた声も、よくよく考えればフレイヤのものじゃなかった。男とも女とも取れる中性的な声だった。ガイアのものでもない。
「え、ちょっと待ってよ……今の誰の声? まさか……」
それに、お間抜け鈍感馬鹿女のフレイヤも流石に気付いたみたいだった。まさか、と思い恐る恐る巽のいる方向へと顔を向ける。
「お、おい……お前、今、喋ったか?」
俺は、兄貴だ。こういう時は、馬鹿な妹は引っ張ってやらないといけない。気味悪い奴に恐る恐る問いかけた。すると、
「騒々しい、場を弁えよ」
はっきりと仮面越しにそう言った。俺達は二人、顔を見合わせ抱き合って――。
「「喋ったぁああああああっ!?」」




