分身
―N.N. アジト 夜―
「ふわぁぁあ……」
巽とガイアと共に、安全な位置から二人の戦いの様子を見守っていた。退屈で仕方がない。子供のわがままに付き合うのも楽じゃない。五番と十二番の差は明白だった。
「ガイア、何か面白いことあると思う?」
「な、ない……かな。あたしは面白い奴じゃないから……参考にならないわ、絶対。こんなことして、何の意味があるの?」
「意味なんてないよ。騒がしい奴を黙らせるのは、現実だけさ」
「フレイが死ぬまでやるの?」
「いやいや、それはしない。半殺しくらいでね」
魔剣を模倣して作らせた物でも、その差は埋まっていない。エトワールは、ちっとも本気を出していないのに。
(それにしても、あの勝利の剣とやらは……よく出来ているな。魔剣まで後一歩というのは、確かみたいだ)
エトワールからの報告で耳には入れていたが、改めてその実物を見ると鍛冶屋に敬意を払わずにはいられなかった。魔剣に関する知識が浅ければ、これを魔剣だと認識していたかもしれない。それくらいによく出来たものだった。
(まだ未知なる力を感じる。本領を発揮していない。何がきっかけで、あの剣は本気を出す?)
剣の様子をじっくりと観察してみるが、使い手が悪いのか凡庸なままである。追い詰められることが、トリガーでないことは確かだ。
(様々な状況下で見てみたいけど、無理だろうなぁ)
あの双子は、二人で一人。イレギュラーなど起こせる器ではないし、一人でエトワールを超越出来る実力もない。それが、はっきりと証明された。
「もう、終わりそうだね……可哀相。あんなに自信満々だったのに、あの子もあたしと同じで弱いんだわ」
彼女が言うように、フレイは分身に取り囲まれていた。何も気付けずに、何も見抜けずに。相手が策を講じるよりも前に、儚く砕け散ろうとしている。
「くそが、くそがくそがくそがくそがっ! 何が勝利の剣だよ! ただのキラキラした剣じゃねぇか! あのくそ鍛冶屋っ! 子供だからって馬鹿にしやがってぇえ! 殺す殺すぜってぇ殺す! こんな剣いるかよ! あ゛あ゛っ!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、フレイは剣を投げ捨てる。それは、本当に偶然――エトワール本体の首筋を掠める。
しかし、それでも彼は何事もなかったかのように円を描くように手を動かし続ける。あれで、何十体もの分身を操っている。
「やめろ、やめろよ! 離せっ!」
分身の一人が、フレイの首を掴んで持ち上げる。引き剥がそうと暴れるも、子供の力はあまりにも小さかった。
(分身すればするほど、個体一つ一つの力は弱まる。その分身に呆気なく捕まってしまったということで、ようやく現実が見えてきただろう? まぁ、もう見えた所で……手遅れなんだけどね)
「がっ……ううっ! ぐうっ!?」
そして、分身達はフレイに一方的に攻撃を浴びせ続けた。




