決闘させて
―フレイ アジト 夜―
「へぇ、どうしてまた急に」
組織での役職を上げる為、決闘に挑みたい――それを聞いたボスは、神妙な面持ちになる。
「ヴィンスの横暴が心配なのです。普段から、他者の気持ちを顧みることのない男です。家族として心配でたまりません。しかし、現状として俺が五番であり、ヴィンスが四番です。たった一つでも、あまりに大きい差です。何かあれば、俺は奴に従わなければならない。あの無神経さで、その権利を振るわれては他の者達が心配でなりません。だから、せめて俺があいつの上に立てれば……その権利を制限することも出来るはずです。ですから、どうか……」
(ヴィンス、ヴィンスって……大好きかよ。幼馴染みたいな感じで、つるんでるのは知ってっけど。どう考えても、自分があいつよりも勝りたいだけじゃん。そんなの許される訳ねぇ――)
「いいんじゃないかな、やってみれば」
「なっ!? なんでだよ!?」
予想外の返し過ぎて、思わず突っ込んでしまった。
「向上心があるのはいいことだと思うからさ。理由はどうあれ……ね。それに、今のエトワールは何だか、らしさがない。多分、そのもやもやを解決しなきゃどうにもならないんだろうから」
その口ぶりからするに、ボスも分かっているみたいだった。その上で許可を出したのだ。俺は、散々断られてきたのに納得がいかない。
「はぁ!? だったら、俺にだって決闘させろよ! 俺一人で! 俺だって向上心の塊だ! なんで、エトワールだけそんなにあっさり許可を出すんだよ!? おかしいだろっ!」
俺のそう訴えると、ボスは心底呆れた様子で息を吐いた。そして、ようやくガイアから手を離して、俺を見据える。
「はぁ……お前もしつこいねぇ。兄妹揃ってよく似てる。たった今合計して、666回に達した。一人で、一人で、一人でなら……お前達は何も成長しなかった。何も結び付けられなかった。何も学べなかった。あれだけの期間がありながら」
体の芯から凍り付いてしまいそうなほどに、冷たい視線だった。その威圧感から、俺は震えた。口を開くことも出来なくなる。
俺は初めて、ボスに対して恐怖を覚えた。このまま殺されてしまうんじゃないか、と。
「だから、もう優しく接することはやめる。何度も何度も諭してきてあげたね。分からないようなら、仕方がない。やれるならやってみればいい。いい相手が、すぐそこにいる訳だから。エトワール」
「はっ」
エトワールは、何かを察した様子で応じる。そして、俺の前にゆっくりと歩み出る。
「フレイ、君がここでエトワールに勝てたなら……望み通りにしてあげよう。ただし、これが最後のチャンスさ。もう次はない。決闘とは、そういうものだから。十二番となる決闘で、お前がそうしたように。そして、エトワール……もう色々と察してくれているようで話が早い。ここで負けるようならば、決闘はなしにする。格下相手だ。その威厳と実力を、再度測らせて貰おうか――」




