衝撃と感嘆
―フレイ アジト 夜―
奇妙な雰囲気の流れる空間だった。俺は、ここにいてもいいのかという気分になる。ボスとガイアはそんな関係ではないのに、気まずさを感じる。
しかし、それはボスの一言によって緩和された。
「――エトワール、そんな所で隠れてどうしたんだい? 何かやましいことでもあるのかい?」
「まさか。エトワールは、そんな子じゃないわ。ちょっと恥ずかしがり屋さんなだけ。ほらほら、そんな所にいたら寂しいでしょう。こっちへいらっしゃい。お母さんが、よしよししてあげるわ」
ボスもガイアも、お互いから視線を逸らさずに言った。
「え? どこにエトワールがいんだよ」
辺りを見渡すも、この部屋にいるのは、俺とガイアとボスと巽だけだった。気配を探るも、どこにも見当たらない。
(ふざけてんのか? いや、エトワールの特性を考えるに……存在感を消してんのか? くっそ、うぜぇ。ボスはともかく、ガイアが分かってんのか気に食わねぇ。こんな奴でも分かることが、俺にも分かんねぇって不快だ。これが……役職の差だってのか?)
不満を漏らしてもいないのに、俺が十二番にとどまる理由を説明された気分だった。フレイヤがいようがいまいが、お前の実力はその所詮その程度であるのだと。
「……機会を伺っておりました。邪魔をしてはいけないと思い」
すると、どこかに潜んでいたエトワールがいつの間にか床で跪いていた。
「なんで?」
そこで、ようやくボスはガイアから視線を外した。不思議そうに首を傾げながら。
(なんで? なんでって正気か? そりゃ、あんなカオスなものを見たら誰だって入りにくいに決まってる)
「別にやましいことをしてた訳じゃないのに。え~まぁ、エトワールもそういう年頃だしね? まぁ、そんな風に捉えてしまうこともあるのかなぁ。でもねぇ、自分とガイアは君らと同じ上司と部下という関係であって――」
「一つ、ボスにお願いしたいことがあり、ここに参りました」
ボスは、にたにたと笑いながらからかう。まだ長く続くようだったが、エトワールがそれを遮った。
「あらあら、貴方にお願いですって。お母さん達も、ここで聞いていていいのかしら? あれだったら、皆を連れて出ていくわよ?」
ガイアは、にこやかにそう提案する。
「必要ない。そんなに内密な話ではないからな」
しかし、それをエトワールは拒否した。その後、立ち上がると、改めてボスに向き直る。ガスマスク越しにでも伝わった。何かの強い覚悟が。
「どうか、俺に再び決闘を受けさせてはくれないでしょうか」
「な!?」
「まぁ……!」
俺は衝撃のあまり間抜けな声を、ガイアは感嘆の声を漏らした。




