俺と世界を繋ぐ
―エトワール モニカの家の前 夕方―
ひっそりと息を潜め、窓から中の様子を眺めていた。心配するようなことは何もなく、子供達にも懐かれた様子だった。
(まさか、いつも通りの格好で行くとはな。あの年齢の子供達に受け入れて貰えるのかと思ったが、杞憂だったな。まぁ、それもアマータの力の影響もあるのかもしれないが……)
号泣する少女の話を、アマータは優しく抱き締めながら聞いていた。これ以上、ここを覗き続けるのは野暮だろう。
(そろそろ晩餐会が始まる頃か)
用意された道は一つだけ。それを外れることは決してない。長らく続いた混乱も、これで終わる。憎しみの連鎖はどこかで断ち切らなければならないのだ。一部で納得のいかない者が暴動を起こすこともあるかもしれないが、その時は手を取り合った者達が立ち向かう。失われていた絆と信頼が、そこから生まれることだろう。
(ボスには、参加してもいいと言われたが……)
煌びやかな中で、いがみ合った者達が食事を楽しむ。その光景を、この目でしっかり焼き付けたいという思いはあった。要するに、興味があった。
(俺に参加する資格はあるのだろうか?)
気にかかるのは、顔につけているガスマスクのことだ。こんな奴が、あの場に現れたら不審者以外の何者でもないだろう。
(しかし、これを外せば……醜い顔が晒されてしまう)
俺は、好き好んでガスマスクをつけている訳じゃない。蒸し暑いし、息苦しい。けれども、つけていなければ周りの者達が気味悪がるし、俺も俺自身の顔が嫌いだ。
(この顔を受け入れて貰えるとは思えない)
この組織に入るより前、俺はとある研究所にいた。何故、そこにいたのかは分からない。物心ついた時には既にいて、実験材料として利用され続けていた。
残されていた資料を見るには、俺のこの顔は他人のいくつかの顔を繋ぎ合わせて作られたものらしく、元々の顔がどんなものだったのか知る術はない。
『――顔が嫌で外に出たくない? 勿体ないよ。そんなに気になるのなら、隠せばいいじゃないか。外はとても広くて、それでいて……何よりも醜い。それを直接見ないなんて、勿体ない。ちっぽけなものさ、個人個人の容姿など』
研究所から出る時に、ボスから貰った物がガスマスクだった。それが、俺と世界を繋いでくれた。知らなかったものを見せてくれた。
(やはり、これを外すことなんて出来ない。だが、俺のせいで何か余計な問題が起こることは避けたい。夜の闇にでも紛れながら、遠目から晩餐会を見るとしようか。それが、俺の得意なことだしな)
ガスマスクをしっかり装着出来ているかどうかを確認しながら、俺は空高く舞い上がった。




