お母さんとお父さんみたい
―アマータ モニカの家 夕方―
「あの、その……ごめんなさい。お母さんの同僚の人に、わざわざこんなことさせちゃって……」
「いいのよん! こっちが勝手にやってるんだから! それより、貴方はモニカちゃんの傍にいてあげて!」
あの人に言われた通り、午後からモニカの家に来て家事をしていた。同僚であるという体にして、接触を図り無事に成功した。モニカが眠り続けていることが幸いした。あの無気力状態なら起きていても、特別な問題は起こらないかもしれないけれど。
「いいえ、お母さんはずっと眠ってるだけだし……本当に申し訳ないから……」
少女は悲しそうに俯く。忙しなく動き続けている母の姿を見続けていたからこそ、この現状が苦しくてたまらないのだろうと思う。
「あー! テレビにアリアお姉ちゃん映ってる!」
一人遊びを楽しんでいた少年が、テレビを見て楽しそうに指を差す。
『今日未明、マーク=アトウッドさんを殺害したとして指名手配されていた娘のアリア=アトウッドがアスガード村で倒れているのを、住人が発見し通報。その後、搬送されましたが死亡が確認されました。全身には傷がある状態であったとのことです。また、付近では原因不明の教会の崩壊も未明に発生しており、関連性を捜査しています。凶悪犯の死亡により、事件の真相は闇の中です。さらに、アトウッドさん殺害事件の捜査に当たっていた警部補の汚職も起こっており、警察の信頼回復が急がれます』
一人の純朴な女性が、凶悪な犯罪者として晒される。もう彼女の名誉が回復されることは、永遠にないだろう。心が痛む。こちら側のわがままで、彼女の人生を狂わせてしまったことは紛れもない事実なのだから。
(でもね、大好きな人の為ならどんな悪にだってなれるの。どれだけ罪に穢れても、それが心地いいの。ごめんなさい)
「どうして、アリアお姉ちゃんはテレビに出てるの? ねー、どうして? オレもテレビ出たい~」
何が何やらといった様子で、少年はテレビを見て問いかける。彼には、まだ理解出来ないのだろう。
「違う……アリアお姉ちゃんは、こんなことしない。犯人なんかじゃない……お母さんだって、あんなに一生懸命頑張ってたのに悪いことなんてするはずがないじゃない」
報道されていることが理解出来る年頃の彼女は、苦虫を噛み潰したような顔でそう呟く。
「ごめんなさい。同じ警察の人間として謝罪するわ。彼女達は被害者よ。まともな者達なら、それに気付いてる。この世界は腐っている。でも、それを……正せない」
怒りに打ち震える少女を、そっと抱き締める。そんな資格はないと自覚しているけれど、勝手に体が動いていた。
「だけど、貴方達だけはその間違いを否定して……彼女達の正しさを信じてあげて。世界の全てが敵になっても、家族が心のよりどころになってくれたなら、それはとても力になるから」
その言葉は、嘘偽りのない本心だった。
「……ありがとうございます。アマータさんって、お父さんとお母さんが一緒になったみたいで、不思議な人ですね。とっても頼もしくて、とっても安心出来る。う、うぅう……」
張り詰めていた彼女から涙が零れる。ずっと堪えていたのだろう。長女として、我慢していたものも多かったはず。頼りたくても頼れない。そんな孤独を小さな体に抱え込んでいた。
『――続いてのニュースです。歴史的な和解となるのか、王とカラスの長の会談はまだ続いています。これは王の提案により実現したもので、和解がなされれば数百年にも及んだ混乱状態が落ち着くこととなります。歴史の溝は果たして埋まるのか。会談が終わり次第、お伝え致します』
(あぁ、ちゃんと茶番を続けているのね。わざとらしく長くして……彼ららしいけれど)
どういう状況であるのか、遠く離れた位置にいる為に情報を得られるのは報道だけ。ただ、それが分かれば十分だ。余計なとが報道されてもいけないと、そっとテレビの電源を消した。




