乖離と融合
―? ?―
「――どうして、泣いているの?」
いつの間にかいた灰色の怖い空間で、何かに聞く。その何かは、ずっと泣き続けていた。球みたいだから、人じゃないことは分かった。でも、怖さは感じなかった。むしろ、興味を持った。
「痛ましいからだ」
「痛ましい? う~ん、何が痛ましいの?」
「この世界の有り様が。吾輩の眠りが永遠でなかったことが……」
「眠りたいの?」
「あぁ、眠りたい。しかし、世界は穢れてしまった。汚れてしまった。吾輩の務めを、神々に代わって果たさねばならない」
その何かが言っていることは、全く分からなかった。ただ、泣くくらいなのだからとても悲しいことなのだろうと思う。だから、僕も泣いた。
「悲しい、悲しいね。僕も悲しい……」
「そうか、少年。少年も分かるか」
「しょう、ねん?」
それが、僕の中で魚の骨がのどに絡まるみたいな感じだった。しかし、手を見てみると確かに小さくても子供のもの。けれど、どうしても納得出来なかった。
「あれ……? 僕は、子供だったっけ……?」
そう思った瞬間、目に映るもの全てが重なって見えた。自分の中で、何かが乖離する感覚を覚える。次に自身の手を見た時には、手の大きさは大人のものになっていた。
それは至極当たり前のことであるはずなのに、今の今まで分からなくなっていた。
「た、つ……み、ごめん……」
そして、先ほどの乖離する感覚は勘違いではなかったのだと理解する。何故なら、目の前にいるのは子供の頃の僕――すなわち、彼だったから。
こうやって、言葉を交わすのはいつぶりだろう。遠い昔のように感じられる。今の僕の中にある記憶の量は膨大で、正確に判断することは難しい。
「僕のせいで、巽を苦しめて……大切なものをまた沢山奪って……」
子供の頃の僕の姿を形どる彼は、化け物としての力を司っている。それを制御し切れないのは、僕が彼を把握し切れていないから。僕の意思が弱いから。決して、彼だけの責任じゃない。
「君と久々に言葉を交わせて良かった。無事で良かった。このままじゃいけないって思っていたけど、君と意思疎通が図れないと色々なことが分からないから。ここがどこなのか、多分……精神世界かもしくはそれに近い所なんだろうね。かつて、僕と君が取り合ったようにすれば、また元の――」
彼に手を差し伸べようとした時、球体――破壊と創造の龍の魂が禍々しく発光し妨害した。
「させぬ。この模造品と融合するのは、吾輩でなくてはならぬ。何、後でお前も吾輩と一体となる。ただ、少し順番と過程が変化するだけのこと。しかし、無念。吾輩にはまだ力が足りぬ、模造品を取り込む力すら残っておらぬ……そういう訳で、しばし待って貰うぞ」
その声を最後に、僕の意識は途絶えた。




