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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十五章 力に堕ちて
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乖離と融合

―? ?―

「――どうして、泣いているの?」


 いつの間にかいた灰色の怖い空間で、何かに聞く。その何かは、ずっと泣き続けていた。球みたいだから、人じゃないことは分かった。でも、怖さは感じなかった。むしろ、興味を持った。


「痛ましいからだ」

「痛ましい? う~ん、何が痛ましいの?」

「この世界の有り様が。吾輩の眠りが永遠でなかったことが……」

「眠りたいの?」

「あぁ、眠りたい。しかし、世界は穢れてしまった。汚れてしまった。吾輩の務めを、神々に代わって果たさねばならない」


 その何かが言っていることは、全く分からなかった。ただ、泣くくらいなのだからとても悲しいことなのだろうと思う。だから、僕も泣いた。


「悲しい、悲しいね。僕も悲しい……」

「そうか、少年。少年も分かるか」

「しょう、ねん?」


 それが、僕の中で魚の骨がのどに絡まるみたいな感じだった。しかし、手を見てみると確かに小さくても子供のもの。けれど、どうしても納得出来なかった。


「あれ……? 僕は、子供だったっけ……?」


 そう思った瞬間、目に映るもの全てが重なって見えた。自分の中で、何かが乖離する感覚を覚える。次に自身の手を見た時には、手の大きさは大人のものになっていた。

 それは至極当たり前のことであるはずなのに、今の今まで分からなくなっていた。


「た、つ……み、ごめん……」


 そして、先ほどの乖離する感覚は勘違いではなかったのだと理解する。何故なら、目の前にいるのは子供の頃の僕――すなわち、彼だったから。

 こうやって、言葉を交わすのはいつぶりだろう。遠い昔のように感じられる。今の僕の中にある記憶の量は膨大で、正確に判断することは難しい。


「僕のせいで、巽を苦しめて……大切なものをまた沢山奪って……」


 子供の頃の僕の姿を形どる彼は、化け物としての力を司っている。それを制御し切れないのは、僕が彼を把握し切れていないから。僕の意思が弱いから。決して、彼だけの責任じゃない。


「君と久々に言葉を交わせて良かった。無事で良かった。このままじゃいけないって思っていたけど、君と意思疎通が図れないと色々なことが分からないから。ここがどこなのか、多分……精神世界かもしくはそれに近い所なんだろうね。かつて、僕と君が取り合ったようにすれば、また元の――」


 彼に手を差し伸べようとした時、球体――破壊と創造の龍の魂が禍々しく発光し妨害した。


「させぬ。この模造品と融合するのは、吾輩でなくてはならぬ。何、後でお前も吾輩と一体となる。ただ、少し順番と過程が変化するだけのこと。しかし、無念。吾輩にはまだ力が足りぬ、模造品を取り込む力すら残っておらぬ……そういう訳で、しばし待って貰うぞ」


 その声を最後に、僕の意識は途絶えた。

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