般若の下の涙
―フレイ アジト 朝―
部屋に入ると、そこには豪華な家具があった。俺達には与えられていない、立派な物だった。
(は~ずるいなぁ。上の城にありそうなもんばっかた。確かにこいつは王だけど、どうせ意識ねぇならここまで優遇する必要なくねぇ? なんなの?)
本当に何をする訳でもなく、座らせた椅子に腰かけている。元々明るそうな感じな奴ではなかったけれど、見えないことで気味悪さ倍増である。
こんな奴とこんな部屋で、時が来るまで同居生活というのも退屈な話だ。
「ねぇ~見てぇ、可愛いでしょ~」
フレイヤも、ずっとこんな調子でドレスを自慢げに見せてくる。もはや、それすら退屈を紛らわせてくれるので、あえて何も言わないでいた。
(お前が主役じゃねぇだろうよ……しかも、めっちゃ高そうな服じゃねぇか。気合入れるとこ、間違ってんじゃねぇの? あ~夜くらいまでこれが続くのか。何もねぇよりはマシだけど……)
「はぁ……」
何気なくついた俺のため息に、瞬時にガイアが反応した。
「あたしがここにいるから……ため息ついたの? あぁ、そうよね。顔がそう言ってるもの。でも、しょうがないじゃない。頼まれてしまったんだし、嫌いでもやることはやらないと……」
(あぁ、もうこっちにも面倒臭いのがいるんだったな)
「ちげぇよ、自意識過剰かよ」
「か、過剰だなんて……ひ、酷いわ……」
「あぁ!? もうウゼぇな。もう知らねぇ……」
ガイアといい、フレイヤといい面倒な女しかいない。素直な言葉を返しても怒られ、勘繰られる。もうこの二人は基本的に放っておくべきなのだろう。耐えられない。相手にする方が疲れる。
「ふんふんふん♪ るんたった、るんるん♪」
フレイヤは、ドレスの裾を持ってステップを踏みだした。最初は小さめにその場で踊るだけであったが、次第にテンションが上がったのか全体を舞い始めた。そして、注意力が散漫になった結果、巽の座っていた椅子に激突した。
「きゃ!」
その反動で、巽は椅子から転がり落ちる。
「何やってんだよ、このすっとこどっこい」
「すっとこどっこいじゃないわ! ふん!」
舌を出して、渋々といった様子で魔法を使って巽を起き上がらせる。
「げっ!?」
巽の様子を見た後、フレイヤは間抜けな声を漏らす。
「今度は何だよ!?」
「なんか、仮面の隙間から水みたいなのがちょっと出てきてる……えぇ、気持ち悪いっ! ちょっと、ガイア! ちゃんと縫ったんでしょうね!?」
「外れない程度に縫えばいいって言われて……ご、ごめんなさい。でも、もう糸も針もないの。それで許して……ごめんなさいごめんなさい」
顔から出てくる水、魔法等の作用でないとしたらかなり限られてくる。
(汗? 鼻水、それとも……涙?)
俺も近付いて見てみると、何となくそれは涙なのではないかと思った。汗にしては他の部分ではかいていないし、鼻水にしては粘り気もなく透き通っている。
(いや、でも涙だったとしても……なんで泣いてんだ? 何も感じないようにされたんじゃねぇのか……?)




