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この力を飼い慣らして

―庭 夜―

 僕は気持ちを落ち着かせる為、庭に出てベンチに座って夜風に当たっていた。


「クロエの前で泣いてしまうなんて……はぁ、情けない」


 結果として、また彼女に気を遣わせてしまった。あの後、泣き崩れた僕を見て彼女は酷くうろたえていた。大の大人が、大号泣している姿を見たのは初めてだったのだろう。彼女に、余計な気遣いをこれ以上させてしまうのは嫌だった。だから、僕は庭に出た。

 そして、一人で夜風に当たり僕の気持ちは少し落ち着いた。ようやく涙も枯れて、周囲の景色を楽しむことが出来るようになった。


(星が……綺麗だな)


 ベンチの背もたれに身を委ねて見上げると、そこには満点の星空が広がっていた。そして、大きな満月も見える。その綺麗な星や月を隠す雲は見当たらない。絶好の鑑賞日和だ。


(ゴンザレスに教えて貰わなければ、これが星だと知ることはなかったんだろうな。この世界の住人は、僕以外に誰も知らない。ただの電気だと思って死んでいくのか……勿体ないな。皆にも教えてあげたいけど、急にそんなことを言っても説得力ないよなぁ。僕がもっと偉ければ……星を星だと伝えることも出来たかもしれないのに)


 僕達が住むここも星で地球と呼ばれるものであることも、僕以外に知る人はいない。誰もそのことに疑念すら抱かずにここまで来たのだ。

 力と学も持った有力者達が興味を持ったのは、遠くにあるものではなくて、近くにあった魔法や魔術。そればかりに力を注いで、下々の者達もそれについて行った。

 もしかしたら、今まで一人くらいは夜空に広がる小さな光は電気ではないと思った人もいたかもしれない。ただ、力が学が……誰かを納得させるのに十分なものが何もなかったからこうなってしまったのだろう。あったとしても使いこなせなかったから、この常識が変わることはなかった。まるで、僕のようだ。


(僕にある力では……何も出来ない。ただ壊して傷付けるだけの力では、何も出来ない)


 かつて持っていた王という身分を、僕は使いこなせなかった。僕の中にある、それよりは小さな力ですらも使いこなせない。


(僕は強くなりたかっただけなのに……でも、僕が望んだのはこんな力じゃない! 姉上や父上に追いつけるくらいの力が欲しかっただけなのに……どうしてこんなことに? それもこれも全部、あいつのせいだ。いや、あいつだけじゃない、抗えなかった僕のせいだ)


 昔は世界を憎んでいた。十六夜にあの姿になってしまうことは、病気だと吹き込まれていたから。僕が信じていたものは、嘘ばかりだった。今も、昔も……嘘だらけ。これは、嘘にまみれた僕への罰なのかもしれない。


(もっと強くならないと、もっと……! じゃなきゃ、僕は小鳥が愛したこの世界を……守れない)


 彼女の想いを命を無駄にしたくない。僕がこの力に飲み込まれて暴走して、正体がばれてしまったら……彼女に合わせる顔がない。

 だから、僕は強くなってこの力を飼い慣らす。そして、目標に追いついて王として相応しくなってみせる。絶対に。

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